春の雪山採集 [日昆 採集記 【2014年】]
2010年、雪中行軍採集にて過酷なフィールドワークに挑み
初のルリクワガタ採集を果たした年であったが…
あれから4年。
今までとは違う別のエリアで、また過酷な道を「無駄に」進む日がやってきた。
ある男にメールした。
*********************
【From】俺
【本文】次の日曜お前予定あるか?
*********************
*********************
【From】No.2
【本文】多分予定ないと思うが、なした(どうした)?
*********************
*********************
【From】俺
【本文】
*********************
彼にはおそらく死刑宣告された気分に近かったのではないか…(苦笑)
今年もまた天候がおかしく、そう云うほどの事かは分からないが
3月の終わりになると日差しも強く雪融けが進み春の気配が感じられてきたと思えば
4月に入ると気温は下がり、風は強まり雪も降りだす始末で
冬に逆戻りしたように身体に寒さがしみるようになってしまった。
山に行こうと計画していたのはそうなる前の事で、
寒くなろうが決して予定は変更せず4月初めの日曜日、その日はきた。
6日(日)
前日まで空は厚い雲が覆っていて結構激しめの雨も降り、
それに加えて強風が吹き荒れるような天気だったのがおさまり
風がまだ若干強く気温も低いままではあったが空に雲は少なく綺麗な青がほとんどという
なんとか「良かった」と言える天気にまで回復してくれた。
一昨日予定していた日程は下記の通り、
・午前9時にNo.2の自宅へ車で迎えに行き出発
↓↓
・車のガソリンと自分達のガソリンを調達し、作戦会議及び予習
↓↓
・山へ到着、採集午前の部
↓↓
・山中で休憩、昼食
↓↓
・午後の部
↓↓
・陽が落ちる前に下山、帰宅
と云う手筈であったのだが…………
俺 「さぁ~行くかぁ!!!!!」
カーラジオ 「10時です。」
また遅れた…
ガソリンを給油し、道すがら寄ったスーパーで買い物を終えて
地図や図鑑を広げ会議を終えた時点で時計は既に午前11時半になろうと云う時刻だった。
スーパーの駐車場を出た後の車内では、相変わらずの会話が始まる…
俺 「こんな時間かよ…(これで午前の部は潰れたな…)予定通りにいかなったかぁ。」
No.2 「いや予定通りだと思うんだけど~」
俺 「いやいやもう山に着いて登り始めてる筈だったんだけど」
No.2 「俺はこうなる(出発が遅れる)と思ってたから予定通りなんだって」
……………………………………………………
目的の山の方角へ直進していたが、向こうの空が灰色に染まってきた事に気付く。
No.2 「『今通り過ぎるからちょっと待ってて♪♪』っていう雲じゃねぇよな(汗)」
俺 「完全に(俺らが来るのを)『待ち構えてる』種類の雲だよな…(汗)」
……………………………………………………
平野部を進み、目的の山も遠くに見えてきた頃…
No.2 「…!?…雨降ってねぇ!?」
俺 「あ、ホントだ。」 言われて気付いてワイパーを動かす。
No.2 「……ん…いや雪だ!!!」
俺 「えぇえっ!!?」
No.2 「全力で山に拒否られてるな(笑)」
俺 「俺が来る事に気づいたか…!」
No.2 「『ヤベぇッ!! あいつが来る!!(怯)』って」
しばらく、フロントガラスに霰がバラバラ吹きつけていたがそれでも空は青かった。
………………………………………………………………
山に到着したのは既に正午を回った後だった。
今回挑む山は、材割りで臨むにあたってこれまで関心を示していなかった「お山」で、
ラベルの字面としては是非とも手にしておきたい場所である。
(「お山」と云うフレーズで県民の方なら見当が付いてしまうと思いますが一応山名は伏せます)
実は先月初旬に一度1人で下見入山し、
かんじきを忘れると云う致命的ミスを抱え挑んだところ見事玉砕し標高550m付近でリタイアし体力が付きる寸前の状態で命辛々下山したあらすじがあります。
(膝まで雪に埋まる状況で、尚且つ平地からちょっと進んだくらいの標高から出発したので
550mと聞くとあまり大した事が無いように見えますがそれでもきつかったです)
車を降り、つなぎの上に防寒着を着て道具を持ちいざお山へ!
勿論かんじきも今日は一緒だ。
ただ、防寒と言っても日昆らしい山をなめた着こなしで
自分は上下で着たものの、単なる風除けのような防寒着で中に綿など入っておらず
No.2に至っては防寒着は下が無く、つなぎの下は素足だ、ついでに履いているのは長靴でもない。
幸いにして天候も好くなり、見晴らしも良い。
地面に積もった雪にも前ほどは足は取られず足首まで埋まるくらいで少しだけだが締まっている。
ここから常に上りだ。
数百mほど進むともうふくらはぎまで埋まるくらいまで雪が柔らかくなってきたので
そろそろだと、かんじきを装着する事に。
かんじきを着けてNo.2が一言、
No.2 「さ~て帰るかぁ」
ホームセンターで買った安いかんじきだが、今日のところは終始壊れる事はなかった。
…………………
かんじきを着けて登り始めて早々、腹が痛くなってきた俺。
ちょっと車内で菓子やジュースを食べ過ぎたようだ…
そんなこんなで暫く登っていると、
段々とミズナラに混じってブナも見えてくるようになってきた。
標高は大体450m~500mくらいからだろうか、
ボロボロになった細い赤枯れのミズナラを見つけた。
ボロボロなので本体がいるとは思えないが取り敢えずクワガタの痕跡だけでも見つからないだろうかと、先日購入した新品の斧を試しうちすることにした。
GERBERのキャンプアックス2。
今回斧は初めて使用するのだが、どこの物が良いのかとネットで色々調べてみたところ
これを比較的見かけたので仕入れてみた。
やはりボロボロの古い材であったためほとんど割る意味を成さなかったが、
マダラっぽい食痕だけは見れた。
…………………………………
何度も現れる急な傾斜に顔を歪めながら先を進んでいくと、見覚えのあるブナの古木が。
前回リタイアして引き返した地点までやってきたのだ。
ここから先は未知の領域、見える範囲にある立ち枯れをチェックしながら
休み休み(主に俺)標高を上げていく…
我々が歩く直ぐ右側は谷になっていて、それを横目に尾根に沿って登る。
標高を上げるにつれ少しずつ傾斜も急になってくる。
時刻は午後の2時を回っていた。
そろそろ昼飯でも食べようとリュックを下ろす。
リュックの中のパンやおにぎりは例外なく全て潰れてしまっていた…が美味い!
リュックの脇にさしているスポーツドリンクで乾いた喉を潤して、また出発した。
……………………
No.2 「新しいな…」
そう言った我々の行く目の前にあったのは動物の真新しい足跡だった。
俺 「あぁ、新しいな確かに。たったさっきここをウサギが通ったんだな。」
No.2 「いや、これウサギじゃねェべ?」
雪の中に深く埋まったその足跡は完全に蹄(ひづめ)の形をしていた。
俺 「カモシカか!」
我々の向かう方向にその足跡は続いていた。
足跡は傾斜の緩急に構わずグネグネと先へ伸び続け、
次第にそれは右側の谷へ下りていった。
再び登る事だけに集中し始めた時、No.2が何かに気付いた。
彼の目線は右側の谷を挟んだ向こう側の斜面に向いていた。
何事かと見やると… それは
先程の足跡の主が悠々と急な傾斜を平行移動していた、しかも2頭。
だいぶ遠いのでズームしたが鮮明な写真は撮れなかったがまぁいいか。
我々がじっとカモシカを凝視していたのに気付いたのか、
向こうも足が止まりこちらを向いたまま動かなくなった。
時刻は2時30分頃だ。
………………………………………
時間は無いので先を急ぐことにした。
標高が上がるにつれますます傾斜が急になってきて斜面の上を目指しただただ無言で歩く。
途中ボロボロに朽ちた木を発見、
コクワでも見つかればなぁ~と斧を入れると所々に見える空洞の内の一つに大きな塊が。
それが昆虫だと分かった瞬間コクワガタの♂成虫を期待したが、
残念ながら暗緑と赤紫の光沢が見え
取り出したそれはキタカブリだった。
………………………………………………
積雪の上に立っている枯れ木は樹皮が無いものもあるものも含め何十本と見るのだが
一向にルリの産卵痕が付けられている木は皆無である。
依然としてブナは生えているのだが、
それまで見なかったダケカンバの存在も散見できるようになってきた。
尾根に沿って山を登りながら、両脇の谷を挟んだ左右の向こう斜面の林を見て
「・・・ああぁ・・・あっちの方にはあるのかなぁ・・・・・・」と遠い目になっている。
No.2は強い風と雪でズボンの裾が凍結している。前述したが彼のズボンの下は素足だ。
傾斜も少しずつきつくなってくるので標高の上がり方はそのペースも早まり、
それに拍車をかけるように吹いている風も強くなるばかり。
地吹雪が起きれば、ただの寒風が直接雪をぶつけられる感覚になり
向こうの木々が大きく揺れそれが次第にこちらに迫ってくる光景はどうしても構えてしまう。
時刻はそろそろ3時半になる。
標高もだいぶ上がってきたし上を見渡すと、あと300~400m先を過ぎると植生の限界に達し
その上からは何の木も生えていないのが肉眼で確認できた。
下山の時間も考えるとこれ以上上を目指すのは得策ではない…
(あとの調べで分かった事だが、木が何も生えていなかったのは標高による植生の限界ではなく大規模雪崩による荒廃や土石流も関係していて、この山の我々がいる方角は火山泥流が堆積し森林限界が近くそのため低木や笹のみで摩擦抵抗が少ないために全層雪崩も起こりやすい斜面で、過去に起こった雪崩でブナが削流されたりと、ルリクワガタ探索の場としてはこの山の中で実は他の斜面と比べあまり適していないらしいエリアに我々はいたようだ)
引き返す事にした。
ここまで来ると我々が辿ってきた尾根から見て左右の傾斜も緩くなり谷も浅くなっている。
「ここまで何も無かったのに同じ道を引き返すのはナンセンスだよな…」…と
No.2に谷を渡り右隣の尾根に移動し帰る事を伝えた。
No.2 「おんなじだってェ~~~(=何もいない)」
谷底で地面が抜けないか慎重に足元を確認しながら傾斜を下り登りし、
無事隣の尾根に移った。
ちなみに、引き返す際に我々が最終的にどのくらいの標高まで来たのか確かめるため
高度計は持っていないのでケータイの地図アプリで手持ちの地形図と照らし合わせ
おおよその数値を割り出そうとした…のだが……
その必要はなかった。
地図アプリを見ると我々の現在地は、
標高1000m以上を表す緑のエリア表記のすぐ手前だったからだ。
まさか軽装備でここまでくるつもりはなかったが正直確かにここまで来ると辛い。
足元の表層部の雪質もほとんど1月2月の新雪と紛う物だ、
明らかに登り始めた時の質感と違う。
ここからまたルリの産卵痕が付いた立ち枯れ・枯れ枝を探しながら山を下りていく。
引き返すと云う事なので、
進行方向を向いてその右側と云うのは、行きで歩いてきた尾根とその間の谷が見えているわけだ、
とするとその反対側…つまり今下っている尾根の左側はどうなっているかと云うと…
なんと右側とは比べ物にならないくらいの深い谷が広がっていた。
この斜面は上から下までブナが大小豊富に並んでおりさっきまで見てきた尾根の林より太い木がざらに生えている。
No.2が渋るのも構わずよせばいいのに尾根から外れ、斜面を下りだした俺(馬鹿だったなぁ)
斜面を下り始めて間もなく、
ズボッッ
「うぉぁああぁあ!!!!!!」
こんな感じでいきなり深みに足を取られる事が二・三度起こり、
これは危険だと漸く思い知った。
俺 「ダメだ(汗)尾根に戻ろう(焦)」
No.2 「戻るも何も、俺ぁ一度もオネェになった事はねぇんだけど」
俺 「オネェじゃねええ!!!! 尾根だ!オネ!」
この頃にはもう二人とも疲れと寒さで滑舌も悪かった。
(ちなみに斜面は雪景色で全く分からなかったが、地図で確認すると地面は露岩帯だった)
斜面を登るのは下りる時より慎重を要した。
なぜなら少し体重移動を間違えただけで急な斜面をズルズルとずり落ちてしまうからだ、
おそらく30°なんてものではきかないと思う、40~45°あるかもしれない。
尾根に戻った我々だったが、突然のアクシデントが起きた。
No.2の片足が攣ったのだ。
筋肉の硬直をなんとか歩けるまでに解いた後、尾根伝いに下りる事を再開。
………………………………………………
そんな中ではあったが、
今度はなんと予想外の物を発見した。
乾いたミズナラの立ち枯れの樹皮を剥がしてみるとその下に、
産卵痕があった!
ほんとにあるのかと感心してしまう始末。
ともあれ削ってみようと今度はマイナスドライバーを使い慎重に食痕を辿っていく。
他の部位や周囲の立ち枯れを見てみたものの痕があるのはこの箇所だけ、慎重にもなる。
交代しながらペキペキ剥がしていくが、手ごたえがあまりない…
度々強烈な地吹雪に見舞われるので風を背で受け作業する手が止まる。
産卵痕の上下に、何箇所か穴が開いている。
まさか成虫が羽脱したか!? と一瞬思ったが実際のところ、穴の質や角度が違うので
容易に天敵の昆虫の開けた穴だと云う事が推測できた。
結果として、食痕は木の中で直ぐ途切れていた。
やはり立ち枯れ上部しか探せない今の時期では効率が悪かったか……
ドライバーをしまい下山を再開した。
ここからはNo.2の安否も考え、枯れ木の探索は止めにし(大体判ったし)
ひたすら山を降りるため歩き続けた。
が、No.2の足は限界近かった…
麓がもう少しで見えるかという頃、先程攣った方とは別の足が攣ってしまったのである。
No.2が両足を攣るのは6年前の十和田での自転車採集以来だ。
⇒ 2009/7/18の記事 『TOWADA LAKE採集 前夜祭 ~去年~』
どうやら先程の急斜面が彼の下半身に大きく負担を掛けたらしく、
凍ったつなぎの裾は足首周辺に物理的な圧迫をかけ、股関節は軋み足首の筋肉が強張った。彼はそれでも立ち止まる時間が惜しいとばかりに短い時間で歩けるまでに足をほぐして立ち上がり歩き始めた。
……………………………………………………………………………………………………
Uターンした地点から結構距離を歩いたようだ。
だいぶ標高が下がったと分かったのはケータイで地図アプリを開き現在地を確認したからではなく、地吹雪や強風が無くなったからだった。
進行方向には我々が車を停めて出発した地点が見えてきていたがまだまだ先は遠かった。
何よりこのNo.2の状態を隣で見ていては、
たとえ残りあと100mで車に着くとしても果てしなく遠く感じてしまう。
……………………………………………………………
車に着いたのは5時半だった。
周りは暗くなりかけている、その気は無かったがやはり日没まで掛かってしまったか…
装備を外し、車に乗り込み山をあとにした。
車内のヒーターをガンガンかけ、寒さも少し和らいだところで「水分補給しよう」、と
後部座席に置いたリュックからペットボトルのスポーツドリンクを飲んだNo.2が一言。
No.2 「!!!??…(中身が)シャーベットになってる……!!!!!!!!!!」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
今回の採集では、今度はどのエリアを探すかと云う事を考えると共に
やっぱり雪が融けたら来るべきだと云う事を痛感した我々(というか俺)でしたが
個人的には今回は、生息状況や個人の体力の把握や経験値の獲得などとは違う別のものを改めて得て感じた事の方が大きい採集だったと思います。
そこは記事を読んで頂いた諸氏には察しがつくと思いますがそれはまぁ生温かい気持ちでスルー(?)してもらえれば気が楽です(笑?)
それにしても……
そうなると持ちかえってきたこのキタカブリの存在感が後々になって濃くなるんだよなぁ…
やっぱり思う。
初のルリクワガタ採集を果たした年であったが…
あれから4年。
今までとは違う別のエリアで、また過酷な道を「無駄に」進む日がやってきた。
ある男にメールした。
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【From】俺
【本文】次の日曜お前予定あるか?
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【From】No.2
【本文】多分予定ないと思うが、なした(どうした)?
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【From】俺
【本文】
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彼にはおそらく死刑宣告された気分に近かったのではないか…(苦笑)
今年もまた天候がおかしく、そう云うほどの事かは分からないが
3月の終わりになると日差しも強く雪融けが進み春の気配が感じられてきたと思えば
4月に入ると気温は下がり、風は強まり雪も降りだす始末で
冬に逆戻りしたように身体に寒さがしみるようになってしまった。
山に行こうと計画していたのはそうなる前の事で、
寒くなろうが決して予定は変更せず4月初めの日曜日、その日はきた。
6日(日)
前日まで空は厚い雲が覆っていて結構激しめの雨も降り、
それに加えて強風が吹き荒れるような天気だったのがおさまり
風がまだ若干強く気温も低いままではあったが空に雲は少なく綺麗な青がほとんどという
なんとか「良かった」と言える天気にまで回復してくれた。
一昨日予定していた日程は下記の通り、
・午前9時にNo.2の自宅へ車で迎えに行き出発
↓↓
・車のガソリンと自分達のガソリンを調達し、作戦会議及び予習
↓↓
・山へ到着、採集午前の部
↓↓
・山中で休憩、昼食
↓↓
・午後の部
↓↓
・陽が落ちる前に下山、帰宅
と云う手筈であったのだが…………
俺 「さぁ~行くかぁ!!!!!」
カーラジオ 「10時です。」
また遅れた…
ガソリンを給油し、道すがら寄ったスーパーで買い物を終えて
地図や図鑑を広げ会議を終えた時点で時計は既に午前11時半になろうと云う時刻だった。
スーパーの駐車場を出た後の車内では、相変わらずの会話が始まる…
俺 「こんな時間かよ…(これで午前の部は潰れたな…)予定通りにいかなったかぁ。」
No.2 「いや予定通りだと思うんだけど~」
俺 「いやいやもう山に着いて登り始めてる筈だったんだけど」
No.2 「俺はこうなる(出発が遅れる)と思ってたから予定通りなんだって」
……………………………………………………
目的の山の方角へ直進していたが、向こうの空が灰色に染まってきた事に気付く。
No.2 「『今通り過ぎるからちょっと待ってて♪♪』っていう雲じゃねぇよな(汗)」
俺 「完全に(俺らが来るのを)『待ち構えてる』種類の雲だよな…(汗)」
……………………………………………………
平野部を進み、目的の山も遠くに見えてきた頃…
No.2 「…!?…雨降ってねぇ!?」
俺 「あ、ホントだ。」 言われて気付いてワイパーを動かす。
No.2 「……ん…いや雪だ!!!」
俺 「えぇえっ!!?」
No.2 「全力で山に拒否られてるな(笑)」
俺 「俺が来る事に気づいたか…!」
No.2 「『ヤベぇッ!! あいつが来る!!(怯)』って」
しばらく、フロントガラスに霰がバラバラ吹きつけていたがそれでも空は青かった。
………………………………………………………………
山に到着したのは既に正午を回った後だった。
今回挑む山は、材割りで臨むにあたってこれまで関心を示していなかった「お山」で、
ラベルの字面としては是非とも手にしておきたい場所である。
(「お山」と云うフレーズで県民の方なら見当が付いてしまうと思いますが一応山名は伏せます)
実は先月初旬に一度1人で下見入山し、
かんじきを忘れると云う致命的ミスを抱え挑んだところ見事玉砕し標高550m付近でリタイアし体力が付きる寸前の状態で命辛々下山したあらすじがあります。
(膝まで雪に埋まる状況で、尚且つ平地からちょっと進んだくらいの標高から出発したので
550mと聞くとあまり大した事が無いように見えますがそれでもきつかったです)
車を降り、つなぎの上に防寒着を着て道具を持ちいざお山へ!
勿論かんじきも今日は一緒だ。
ただ、防寒と言っても日昆らしい山をなめた着こなしで
自分は上下で着たものの、単なる風除けのような防寒着で中に綿など入っておらず
No.2に至っては防寒着は下が無く、つなぎの下は素足だ、ついでに履いているのは長靴でもない。
幸いにして天候も好くなり、見晴らしも良い。
地面に積もった雪にも前ほどは足は取られず足首まで埋まるくらいで少しだけだが締まっている。
ここから常に上りだ。
数百mほど進むともうふくらはぎまで埋まるくらいまで雪が柔らかくなってきたので
そろそろだと、かんじきを装着する事に。
かんじきを着けてNo.2が一言、
No.2 「さ~て帰るかぁ」
ホームセンターで買った安いかんじきだが、今日のところは終始壊れる事はなかった。
…………………
かんじきを着けて登り始めて早々、腹が痛くなってきた俺。
ちょっと車内で菓子やジュースを食べ過ぎたようだ…
そんなこんなで暫く登っていると、
段々とミズナラに混じってブナも見えてくるようになってきた。
標高は大体450m~500mくらいからだろうか、
ボロボロになった細い赤枯れのミズナラを見つけた。
ボロボロなので本体がいるとは思えないが取り敢えずクワガタの痕跡だけでも見つからないだろうかと、先日購入した新品の斧を試しうちすることにした。
GERBERのキャンプアックス2。
今回斧は初めて使用するのだが、どこの物が良いのかとネットで色々調べてみたところ
これを比較的見かけたので仕入れてみた。
やはりボロボロの古い材であったためほとんど割る意味を成さなかったが、
マダラっぽい食痕だけは見れた。
…………………………………
何度も現れる急な傾斜に顔を歪めながら先を進んでいくと、見覚えのあるブナの古木が。
前回リタイアして引き返した地点までやってきたのだ。
ここから先は未知の領域、見える範囲にある立ち枯れをチェックしながら
休み休み(主に俺)標高を上げていく…
我々が歩く直ぐ右側は谷になっていて、それを横目に尾根に沿って登る。
標高を上げるにつれ少しずつ傾斜も急になってくる。
時刻は午後の2時を回っていた。
そろそろ昼飯でも食べようとリュックを下ろす。
リュックの中のパンやおにぎりは例外なく全て潰れてしまっていた…が美味い!
リュックの脇にさしているスポーツドリンクで乾いた喉を潤して、また出発した。
……………………
No.2 「新しいな…」
そう言った我々の行く目の前にあったのは動物の真新しい足跡だった。
俺 「あぁ、新しいな確かに。たったさっきここをウサギが通ったんだな。」
No.2 「いや、これウサギじゃねェべ?」
雪の中に深く埋まったその足跡は完全に蹄(ひづめ)の形をしていた。
俺 「カモシカか!」
我々の向かう方向にその足跡は続いていた。
足跡は傾斜の緩急に構わずグネグネと先へ伸び続け、
次第にそれは右側の谷へ下りていった。
再び登る事だけに集中し始めた時、No.2が何かに気付いた。
彼の目線は右側の谷を挟んだ向こう側の斜面に向いていた。
何事かと見やると… それは
先程の足跡の主が悠々と急な傾斜を平行移動していた、しかも2頭。
だいぶ遠いのでズームしたが鮮明な写真は撮れなかったがまぁいいか。
我々がじっとカモシカを凝視していたのに気付いたのか、
向こうも足が止まりこちらを向いたまま動かなくなった。
時刻は2時30分頃だ。
………………………………………
時間は無いので先を急ぐことにした。
標高が上がるにつれますます傾斜が急になってきて斜面の上を目指しただただ無言で歩く。
途中ボロボロに朽ちた木を発見、
コクワでも見つかればなぁ~と斧を入れると所々に見える空洞の内の一つに大きな塊が。
それが昆虫だと分かった瞬間コクワガタの♂成虫を期待したが、
残念ながら暗緑と赤紫の光沢が見え
取り出したそれはキタカブリだった。
………………………………………………
積雪の上に立っている枯れ木は樹皮が無いものもあるものも含め何十本と見るのだが
一向にルリの産卵痕が付けられている木は皆無である。
依然としてブナは生えているのだが、
それまで見なかったダケカンバの存在も散見できるようになってきた。
尾根に沿って山を登りながら、両脇の谷を挟んだ左右の向こう斜面の林を見て
「・・・ああぁ・・・あっちの方にはあるのかなぁ・・・・・・」と遠い目になっている。
No.2は強い風と雪でズボンの裾が凍結している。前述したが彼のズボンの下は素足だ。
傾斜も少しずつきつくなってくるので標高の上がり方はそのペースも早まり、
それに拍車をかけるように吹いている風も強くなるばかり。
地吹雪が起きれば、ただの寒風が直接雪をぶつけられる感覚になり
向こうの木々が大きく揺れそれが次第にこちらに迫ってくる光景はどうしても構えてしまう。
時刻はそろそろ3時半になる。
標高もだいぶ上がってきたし上を見渡すと、あと300~400m先を過ぎると植生の限界に達し
その上からは何の木も生えていないのが肉眼で確認できた。
下山の時間も考えるとこれ以上上を目指すのは得策ではない…
(あとの調べで分かった事だが、木が何も生えていなかったのは標高による植生の限界ではなく大規模雪崩による荒廃や土石流も関係していて、この山の我々がいる方角は火山泥流が堆積し森林限界が近くそのため低木や笹のみで摩擦抵抗が少ないために全層雪崩も起こりやすい斜面で、過去に起こった雪崩でブナが削流されたりと、ルリクワガタ探索の場としてはこの山の中で実は他の斜面と比べあまり適していないらしいエリアに我々はいたようだ)
引き返す事にした。
ここまで来ると我々が辿ってきた尾根から見て左右の傾斜も緩くなり谷も浅くなっている。
「ここまで何も無かったのに同じ道を引き返すのはナンセンスだよな…」…と
No.2に谷を渡り右隣の尾根に移動し帰る事を伝えた。
No.2 「おんなじだってェ~~~(=何もいない)」
谷底で地面が抜けないか慎重に足元を確認しながら傾斜を下り登りし、
無事隣の尾根に移った。
ちなみに、引き返す際に我々が最終的にどのくらいの標高まで来たのか確かめるため
高度計は持っていないのでケータイの地図アプリで手持ちの地形図と照らし合わせ
おおよその数値を割り出そうとした…のだが……
その必要はなかった。
地図アプリを見ると我々の現在地は、
標高1000m以上を表す緑のエリア表記のすぐ手前だったからだ。
まさか軽装備でここまでくるつもりはなかったが正直確かにここまで来ると辛い。
足元の表層部の雪質もほとんど1月2月の新雪と紛う物だ、
明らかに登り始めた時の質感と違う。
ここからまたルリの産卵痕が付いた立ち枯れ・枯れ枝を探しながら山を下りていく。
引き返すと云う事なので、
進行方向を向いてその右側と云うのは、行きで歩いてきた尾根とその間の谷が見えているわけだ、
とするとその反対側…つまり今下っている尾根の左側はどうなっているかと云うと…
なんと右側とは比べ物にならないくらいの深い谷が広がっていた。
この斜面は上から下までブナが大小豊富に並んでおりさっきまで見てきた尾根の林より太い木がざらに生えている。
No.2が渋るのも構わずよせばいいのに尾根から外れ、斜面を下りだした俺(馬鹿だったなぁ)
斜面を下り始めて間もなく、
ズボッッ
「うぉぁああぁあ!!!!!!」
こんな感じでいきなり深みに足を取られる事が二・三度起こり、
これは危険だと漸く思い知った。
俺 「ダメだ(汗)尾根に戻ろう(焦)」
No.2 「戻るも何も、俺ぁ一度もオネェになった事はねぇんだけど」
俺 「オネェじゃねええ!!!! 尾根だ!オネ!」
この頃にはもう二人とも疲れと寒さで滑舌も悪かった。
(ちなみに斜面は雪景色で全く分からなかったが、地図で確認すると地面は露岩帯だった)
斜面を登るのは下りる時より慎重を要した。
なぜなら少し体重移動を間違えただけで急な斜面をズルズルとずり落ちてしまうからだ、
おそらく30°なんてものではきかないと思う、40~45°あるかもしれない。
尾根に戻った我々だったが、突然のアクシデントが起きた。
No.2の片足が攣ったのだ。
筋肉の硬直をなんとか歩けるまでに解いた後、尾根伝いに下りる事を再開。
………………………………………………
そんな中ではあったが、
今度はなんと予想外の物を発見した。
乾いたミズナラの立ち枯れの樹皮を剥がしてみるとその下に、
産卵痕があった!
ほんとにあるのかと感心してしまう始末。
ともあれ削ってみようと今度はマイナスドライバーを使い慎重に食痕を辿っていく。
他の部位や周囲の立ち枯れを見てみたものの痕があるのはこの箇所だけ、慎重にもなる。
交代しながらペキペキ剥がしていくが、手ごたえがあまりない…
度々強烈な地吹雪に見舞われるので風を背で受け作業する手が止まる。
産卵痕の上下に、何箇所か穴が開いている。
まさか成虫が羽脱したか!? と一瞬思ったが実際のところ、穴の質や角度が違うので
容易に天敵の昆虫の開けた穴だと云う事が推測できた。
結果として、食痕は木の中で直ぐ途切れていた。
やはり立ち枯れ上部しか探せない今の時期では効率が悪かったか……
ドライバーをしまい下山を再開した。
ここからはNo.2の安否も考え、枯れ木の探索は止めにし(大体判ったし)
ひたすら山を降りるため歩き続けた。
が、No.2の足は限界近かった…
麓がもう少しで見えるかという頃、先程攣った方とは別の足が攣ってしまったのである。
No.2が両足を攣るのは6年前の十和田での自転車採集以来だ。
⇒ 2009/7/18の記事 『TOWADA LAKE採集 前夜祭 ~去年~』
どうやら先程の急斜面が彼の下半身に大きく負担を掛けたらしく、
凍ったつなぎの裾は足首周辺に物理的な圧迫をかけ、股関節は軋み足首の筋肉が強張った。彼はそれでも立ち止まる時間が惜しいとばかりに短い時間で歩けるまでに足をほぐして立ち上がり歩き始めた。
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Uターンした地点から結構距離を歩いたようだ。
だいぶ標高が下がったと分かったのはケータイで地図アプリを開き現在地を確認したからではなく、地吹雪や強風が無くなったからだった。
進行方向には我々が車を停めて出発した地点が見えてきていたがまだまだ先は遠かった。
何よりこのNo.2の状態を隣で見ていては、
たとえ残りあと100mで車に着くとしても果てしなく遠く感じてしまう。
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車に着いたのは5時半だった。
周りは暗くなりかけている、その気は無かったがやはり日没まで掛かってしまったか…
装備を外し、車に乗り込み山をあとにした。
車内のヒーターをガンガンかけ、寒さも少し和らいだところで「水分補給しよう」、と
後部座席に置いたリュックからペットボトルのスポーツドリンクを飲んだNo.2が一言。
No.2 「!!!??…(中身が)シャーベットになってる……!!!!!!!!!!」
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今回の採集では、今度はどのエリアを探すかと云う事を考えると共に
やっぱり雪が融けたら来るべきだと云う事を痛感した我々(というか俺)でしたが
個人的には今回は、生息状況や個人の体力の把握や経験値の獲得などとは違う別のものを改めて得て感じた事の方が大きい採集だったと思います。
そこは記事を読んで頂いた諸氏には察しがつくと思いますがそれはまぁ生温かい気持ちでスルー(?)してもらえれば気が楽です(笑?)
それにしても……
そうなると持ちかえってきたこのキタカブリの存在感が後々になって濃くなるんだよなぁ…
やっぱり思う。
いったい何をしに行ったんだ?????(笑)
某お山探索お疲れ様です。
こうやって文章だけで読むと何も目当ての昆虫が採集できなくても
採集が楽しそうに感じてしまうのは私だけでしょうか?(汗)
実際その場所に採集しに行くと、採集できないと苦労の連続で
お目当ての物が採集できないと疲労困憊してしまい
精神的にも肉体的にもツラいですよね(苦笑)
次、某お山に行く時は是非、私も同行させて下さい!
by RE:myon (2014-04-09 13:01)
Re:myonさんこんばんは、
どうでしょうかね…(汗)
自分らは今まで過酷な採集の結果ほとんどボウズ、なんて事はざらにあるのでこれが当たり前なんですよ(嘲笑)
まぁ虫が採れない分他の内容でカバーしないと…なんて思ったりしまして(笑)
採れなくても採れなくてもいつか採れると夢見て意地になるので
自分はホントにどつぼに嵌りやすい性格なんだなと思います。
付き合わされたNo.2は精神的にも肉体的にも…うん…(焦)
…死にますよ?(汗)
by 会長 (2014-04-11 01:18)
生還おめでとうございます。
雪山での採集は生死に関わりますからね。
僕が思うに、疲れを感じる前に引き返すことを考えたほうがいいかもしれません。
しかし無事で、ボウズでもなくて何よりです。
お疲れ様でした。
カモシカの写真のフォント、水曜どうでしょうを思い出します。
by ベーグ (2014-04-17 20:13)
ベーグさんこんばんは、
生きて帰りました(汗)
標高が高くなるほど突風が強くなり天候が悪化するので
気温の逓減率や酸素量と相まってどんどん酷になります。
なるほど、疲れ具合で引き返す目途をつけるんですね…、
貴重なご意見ですね、自分はかなり序盤で疲れ、No.2は疲れを人に見せない奴なので声掛けは確かに大事かもしれませんね。
カモシカのとこ、この為にフォントソフト買いました(笑)
あえてどうでしょうに寄せてみました。
by 会長 (2014-04-18 20:23)