疑惑のオキピ [オキピタリスノコギリ (原名亜種)]
アングスティコルニスミヤマ、アスタコイデスノコギリ、ここまで2種続けて紹介してきましたが、
今年入手した残り1種については、前の2種と違って手放しで喜べない虫なので少し詳しく書いてみたいと思います。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
今年の6月のある日、関西のあるショップのサイトにとある虫を見つけ目を疑いました。
「え!!!? ペレン産!!!!?」
サイトの新着情報欄に載っていたのは、オキピタリスノコギリの幼虫。
驚いたのは、その販売個体の産地、『ペレン島』。
ウソだろ・・・!? ありえない・・・ しかしこれは・・・凄いぞ・・・!!
たかがオキピに何をコーフンしてるんだ? と思われるでしょう。
オキピタリスノコギリはミャンマー南部からインドネシア~フィリピンにかけて広い範囲に普通に見られる一般的なクワガタなのですが、地域や島によって特徴が変わり、大きく分けると
・フィリピン~スラウェシ近海は原名亜種P. o. occipitalis
・大陸~スマトラ~ジャワ~ボルネオあたりまでは亜種アステリクスP. o. astericus
の2つに分かれるのですが、
特定の島嶼の個体群は特徴が認められさらに別の亜種として昇格しています。
その一つが一部でブームになったブラックヘッドことシムルエ亜種ヒデオP. o. hideoi
頭部が黒化し前胸の模様の特徴や光沢が他産地と異なっています。
そして、もう一つだけ亜種があり、それがペレン亜種マサコP. o. masakoae
♂は頭部の発達がやや悪く、色がやや濃いめ。そしてこの亜種の最大の特徴が♀の体表がほとんど黒化すると云う事。
(ちなみに、他にも亜種がいるのですがあまり支持されていない亜種なので割愛します)
「ペレン産が亜種なのは分かったけどなんでそんなに驚いてんの?」と云うと、
このペレンのマサコオキピの採集数に関係しています。
外産クワガタの入荷動向によく目を輝かせている諸兄ならご存知だと思いますが、スラウェシ島東沖に浮かぶペレン島からは昔からメタリフェルホソアカ、ファブリースノコギリがよく入荷し、たまにフルストルファーノコギリやオオヒラタなども入荷していますが、オキピタリスノコギリはどうでしょうか。
(ほぼ)無いんです。
なぜならば、この島のオキピタリスは他の島と生息事情が違っていて、大の付く珍品だからです。
日本で例えるなら、採集法が確立する前のヤエヤマコクワぐらいですかね。
それが、外国産をたくさん扱うそのショップの新着情報にポッと載っていたワケです。
これは買わないワケにはいかないでしょう。
ショップのブログでも、ペレン島産について特別何も言及されておらず亜種の区別も無く1頭600円で販売されていた事から、「これは店側も把握していない掘り出し物を見つけてしまった」と思い鼻息を荒げ、同じくオキピに目が無いNo.7に連絡。
しかし、興奮を覚えながらも一抹の不安がありました。
WF1の幼虫という事は、セットを組んだ人はWILDの親♀を見ているワケだよなぁ・・・
てことは黒い=普通じゃないって事は分かってるはずだよなぁ・・・
それで1頭600円ってのはどういう事?
この亜種自体、情報が少ないから中には普通の体色の♀も存在してて、別亜種だと気付かなかったからか?
いや別に亜種が違うからって値段を上げたりするとは限らない店だからその線もあるのか?
・・・もしかしてやっぱり・・・
この業界、亜種が違うと途端に熱狂するのが常。
新種、新亜種発見・格上げで流通価格が跳ね上がり、こうした動向に神経を尖らせ我先に流通の主導権を取ろうと眼を血走らせている人もいれば、逆にそれに対して癖易し嫌う人もいます。
マサコオキピは、ヒデオオキピのように♂の特徴が変わっている亜種ではなく♀に特徴がある亜種なので一般には盛り上がり要素に欠けるとも言えるのですが、それでもショップ側は通常のオキピと同じように扱っているのは不自然な気がしたワケです。
No.7 「まぁ♀が羽化すれば分かる事でしょう」
パソコンの前で考えても埒が明かないのでとりあえず10頭いた在庫をNo.7と一緒に買い占めてみました。
そして後日、生体が到着しました。
代表して購入手続きしてくれたNo.7の話によると、店側の話では親♀は黒くはなかったとの事だそうです。10頭の幼虫は、No.7と2人で分け5頭ずつそれぞれ飼う事にしました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして月日が経過し、この秋に無事♀が羽化し、♂も羽化しました。
身体が固まったので、いよいよ満を持してUPしてみます。
♂
あれ、思てたんと違う・・・!!
体色はもうちょっと濃いモノかと思ってたんですが、見慣れた感じの色ですね。
歯型も長歯ではないのですが、記載された個体も短歯だったので見比べてみるとなんか違う気がします。体型も普通で前胸から頭部にかけて狭く小さくなっているかと言うと・・・普通?
頭部の発色の質感も・・・
これ普通のスラウェシと変わらないじゃん!!!!!!
♀-1
♀-2
♀-3
♀-4
WF1だけあって前胸の紋の出方もバラバラですが、
一目瞭然、そもそも黒くねぇ!!!!
頭部の色も赤みが強く、普通のスラウェシ産と特徴が一緒。
一部マニアの間では、「果たして本当にペレンのオキピは黒いのか? 黒い♀と云うのは実際オキピとは関係ない種類なんじゃないか?」と疑問視されているようですが、現地で実際に採集されている方の話を引き合いに出すと、
「実際にペレンで黒い♀は採っていて、その♀からまともな数の幼虫は採れなかったが羽化した個体は確かに♂のオキピタリスだった」という事と
「買い付けに行く邦人バイヤーが現地のキャッチャー(かキーパー)に担がれている」と云う話があります。
色々と考えてしまうトコロはありますがここから先は今後の入荷にかかっているでしょうね。
ここまでの話を組み立てた結果、結論、
と判断しました。
つまり、スラウェシ産の原名亜種という事ですね。
No.7の方でも羽化したのは何の変哲もない通常の特徴だったようです。
ちょっとした波乱がありましたが、これで今年の増種は終わりです。
新しく入荷した在庫 1種類
全ての在庫 16種類
今年入手した残り1種については、前の2種と違って手放しで喜べない虫なので少し詳しく書いてみたいと思います。
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今年の6月のある日、関西のあるショップのサイトにとある虫を見つけ目を疑いました。
「え!!!? ペレン産!!!!?」
サイトの新着情報欄に載っていたのは、オキピタリスノコギリの幼虫。
驚いたのは、その販売個体の産地、『ペレン島』。
ウソだろ・・・!? ありえない・・・ しかしこれは・・・凄いぞ・・・!!
たかがオキピに何をコーフンしてるんだ? と思われるでしょう。
オキピタリスノコギリはミャンマー南部からインドネシア~フィリピンにかけて広い範囲に普通に見られる一般的なクワガタなのですが、地域や島によって特徴が変わり、大きく分けると
・フィリピン~スラウェシ近海は原名亜種P. o. occipitalis
・大陸~スマトラ~ジャワ~ボルネオあたりまでは亜種アステリクスP. o. astericus
の2つに分かれるのですが、
特定の島嶼の個体群は特徴が認められさらに別の亜種として昇格しています。
その一つが一部でブームになったブラックヘッドことシムルエ亜種ヒデオP. o. hideoi
頭部が黒化し前胸の模様の特徴や光沢が他産地と異なっています。
そして、もう一つだけ亜種があり、それがペレン亜種マサコP. o. masakoae
♂は頭部の発達がやや悪く、色がやや濃いめ。そしてこの亜種の最大の特徴が♀の体表がほとんど黒化すると云う事。
(ちなみに、他にも亜種がいるのですがあまり支持されていない亜種なので割愛します)
「ペレン産が亜種なのは分かったけどなんでそんなに驚いてんの?」と云うと、
このペレンのマサコオキピの採集数に関係しています。
外産クワガタの入荷動向によく目を輝かせている諸兄ならご存知だと思いますが、スラウェシ島東沖に浮かぶペレン島からは昔からメタリフェルホソアカ、ファブリースノコギリがよく入荷し、たまにフルストルファーノコギリやオオヒラタなども入荷していますが、オキピタリスノコギリはどうでしょうか。
(ほぼ)無いんです。
なぜならば、この島のオキピタリスは他の島と生息事情が違っていて、大の付く珍品だからです。
日本で例えるなら、採集法が確立する前のヤエヤマコクワぐらいですかね。
それが、外国産をたくさん扱うそのショップの新着情報にポッと載っていたワケです。
これは買わないワケにはいかないでしょう。
ショップのブログでも、ペレン島産について特別何も言及されておらず亜種の区別も無く1頭600円で販売されていた事から、「これは店側も把握していない掘り出し物を見つけてしまった」と思い鼻息を荒げ、同じくオキピに目が無いNo.7に連絡。
しかし、興奮を覚えながらも一抹の不安がありました。
WF1の幼虫という事は、セットを組んだ人はWILDの親♀を見ているワケだよなぁ・・・
てことは黒い=普通じゃないって事は分かってるはずだよなぁ・・・
それで1頭600円ってのはどういう事?
この亜種自体、情報が少ないから中には普通の体色の♀も存在してて、別亜種だと気付かなかったからか?
いや別に亜種が違うからって値段を上げたりするとは限らない店だからその線もあるのか?
・・・もしかしてやっぱり・・・
この業界、亜種が違うと途端に熱狂するのが常。
新種、新亜種発見・格上げで流通価格が跳ね上がり、こうした動向に神経を尖らせ我先に流通の主導権を取ろうと眼を血走らせている人もいれば、逆にそれに対して癖易し嫌う人もいます。
マサコオキピは、ヒデオオキピのように♂の特徴が変わっている亜種ではなく♀に特徴がある亜種なので一般には盛り上がり要素に欠けるとも言えるのですが、それでもショップ側は通常のオキピと同じように扱っているのは不自然な気がしたワケです。
No.7 「まぁ♀が羽化すれば分かる事でしょう」
パソコンの前で考えても埒が明かないのでとりあえず10頭いた在庫をNo.7と一緒に買い占めてみました。
そして後日、生体が到着しました。
オキピタリスノコギリ(亜種マサコ) ペレン島?
代表して購入手続きしてくれたNo.7の話によると、店側の話では親♀は黒くはなかったとの事だそうです。10頭の幼虫は、No.7と2人で分け5頭ずつそれぞれ飼う事にしました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして月日が経過し、この秋に無事♀が羽化し、♂も羽化しました。
身体が固まったので、いよいよ満を持してUPしてみます。
♂
あれ、思てたんと違う・・・!!
体色はもうちょっと濃いモノかと思ってたんですが、見慣れた感じの色ですね。
歯型も長歯ではないのですが、記載された個体も短歯だったので見比べてみるとなんか違う気がします。体型も普通で前胸から頭部にかけて狭く小さくなっているかと言うと・・・普通?
頭部の発色の質感も・・・
これ普通のスラウェシと変わらないじゃん!!!!!!
♀-1
♀-2
♀-3
♀-4
WF1だけあって前胸の紋の出方もバラバラですが、
一目瞭然、そもそも黒くねぇ!!!!
頭部の色も赤みが強く、普通のスラウェシ産と特徴が一緒。
一部マニアの間では、「果たして本当にペレンのオキピは黒いのか? 黒い♀と云うのは実際オキピとは関係ない種類なんじゃないか?」と疑問視されているようですが、現地で実際に採集されている方の話を引き合いに出すと、
「実際にペレンで黒い♀は採っていて、その♀からまともな数の幼虫は採れなかったが羽化した個体は確かに♂のオキピタリスだった」という事と
「買い付けに行く邦人バイヤーが現地のキャッチャー(かキーパー)に担がれている」と云う話があります。
色々と考えてしまうトコロはありますがここから先は今後の入荷にかかっているでしょうね。
ここまでの話を組み立てた結果、結論、
これ・・・違う・・・
と判断しました。
つまり、スラウェシ産の原名亜種という事ですね。
No.7の方でも羽化したのは何の変哲もない通常の特徴だったようです。
ちょっとした波乱がありましたが、これで今年の増種は終わりです。
新しく入荷した在庫 1種類
全ての在庫 16種類
金返せって言って下さい
by kounotorinoyume (2018-01-11 02:09)
分かってて敢えて手を出しましたからねぇ。
ブログ記事に出来たことが一つの狙いの成功でもあるので悔いはないですよ(苦笑)寂しい気分にはなりましたが・・・
ショップや業者の話を何でもかんでも鵜呑みにしちゃいけないと云う事がこの記事を読んでくれた人達に伝わっていれば満足です。
by 会長 (2018-01-11 20:21)