SSブログ

蟷螂ハ何処ニ産スル [青森の昆虫事情]

秋もそろそろ終盤となってきましたね。
紅葉の見頃も過ぎつつある中久しぶりの更新ですが、今回はクワガタをお休みして別の昆虫について書いてみようと思います。


時期は9月、コクワ成虫採集シーズンも終わりに近づきつつあり、焦りを覚えながら夜の津軽平野を車で走り回っていた時の事です。

閑静な住宅地のとある交差点にさしかかった時、車の前をパタパタ・・・と見慣れないシルエットの虫が飛んでいきすぐ着地したのが目に入りました。
大きなシルエットだったのでトノサマバッタかと思ったのですが、バッタにしては妙に弱弱しい飛び方だな~と気になってしまって、車を降りて確かめてみてビックリ! 正体はカマキリでした。

何がビックリって、自身カマキリを見たのは随分久しぶりだからです。
いや正確には何年とか覚えてないのですが、見た瞬間「うっわ久しぶり~」なんて感想が出てきましたからね。しかも、そのカマキリはこれまで一度も見たことが無かった種類です。その場でしばらく撮影会ですよ。

そんな事があったもんですから、コクワ採集に煮詰まっていた時の良い気分転換としてそこからカマキリ探しにシフトチェンジですよ(気分転換とは言っても平日の夜とか行ってると体力的には結構大変です)
津軽半島から下北半島にかけて、居そうな所を見て回ったんですが探すと大変ですね・・・
時には、No.2No.6をお供に大捜索網を張ったりして、成果たる成果はあまり無かったんですがそれなりに楽しむ事はできました。


そんでもって、ちょっとワケあって青森県に分布するカマキリについて調べてみる事にしたんですが、意外にも青森に自然分布しているカマキリってかなり少ないんですねぇ。
カマキリって人気昆虫のわりに意外と情報がフワフワしたところも多いので、今回は青森県に見られるカマキリの種類の概要と、これから先青森で見られる可能性がある種類を紹介します。
ちなみに、学名は日本産直翅類標準図鑑など(※)を参考にして、自分の所感も織り交ぜて書いていきます。
※「など」ですよ・・・



青森県に分布している種

オオカマキリ Tenodera sinensis (Saussure, 1871)
KIMG3314.JPG
(2021年 青森市 ♀)

カマキリとしては日本最大種で、♀は最大95mm前後にもなります。体色は緑または褐色で、生息環境によってその割合がある程度比例するようです。前脚(脛節~基節)に模様は無し、前翅も模様は無く、後翅はそのほとんどが黒く色づいています(写真「→矢印」)。前脚の付け根の色は黄色です(写真「←矢印」)
KIMG3324.JPGKIMG3321.JPG
国内分布は北海道南部から九州までで、海外では中国~東南アジアです(だからsinensisなんですね)
主に平地から山間部の草地や林間で見る事が多く、卵のう(卵鞘や卵包とも)は細い草(2~6mm径)に好んで産み付け、形は釣鐘型(カマキリの中で一番立体的な形)

青森県では全域で見られ、特に一般的な種類です。
青森市内でもわりと街中で見つける事があり、ネットで調べて出てきた青森県産カマキリ写真のほぼ100%近くがコレです。今年は、青森市とむつ市とつがる市で観察出来ました。
KIMG3313.JPG
(2021年 むつ市 幼虫)

卵の高さと積雪予想
カマキリの話で有名な、
「卵のうの高さで、その年に積もる雪の深さが分かる」
と云う話、もう随分と前に弘前大学の研究でそれが間違いであると云う事が分かっているのですが、未だに冬前になるとその話題が出ていますね。

積雪予想の話の元になった論文は、検証の段階で条件が場所場所によって違っていて、さらに相当の補正をかけて結論が出されています。
青森県(弘前)において積雪前の時期に卵のある位置を探した結果として、基本的に細い草本や蔓性木本なんかの低い植物に産む事が明らかとなっています。さらに、冬季の大部分を経過した積雪下の卵を採集して加温したところ100%に近い割合で孵化したと云うデータがあります(15年位前ですが当時ラジオのニュースで流れていたのを覚えています)。青森のように平地ですら1m以上雪が積もる土地では、草なんて豪雪と吹雪で全部倒れて埋まっちゃいますからねぇ・・・
雪解け期を想定した浸水実験でも、卵が成長しない温度帯では60日の経過後も高い孵化率だったとの事です。

詳しい事は、東海大学出版会の「耐性の昆虫学」で読む事もできますが、積雪予想が出来なくてもカマキリって凄い生き物だと感心させられますね。




ウスバカマキリ Mantis religiosa (Linnaeus, 1758)
KIMG3161.JPG
(2021年 つがる市 ♂)

成虫は♀で最大65mm前後で、オオカマキリと比べるとやや小さいです。体型はオオカマキリと比べると細く華奢で、体色は淡く薄いですね。
前翅がやや透き通って見える事が和名の由来だと思うんですが、実際見るとちょっとツヤツヤしていてオオカマキリより美しく感じます。また、前脚の基節に黒くて丸い紋模様が入っていて、本種を見分ける一番簡単なポイントでもあります。
KIMG3152.JPG
この黒紋は個体によっては中が白くなる個体もあって、見た目から俗にリング紋とか言われています。
管理地のような草丈の短く、しかも安定した草原環境に生息しています。卵のうはオオカマキリのように草に産むのではなく、倒木や石の裏などに縦長に貼り付くようにして産み付けられます。

青森県で昔から分布しているカマキリの一つですが、オオカマキリとは違ってそこらヘンでは全然見つけられず、現在は分布がかなり限定的です。生息地の環境選びが非常にデリケートと言われ、ただ普通の草むらではダメで、ある程度茂りが抑えられていてススキやカヤみたいな高い草が無いような所で見つかる事が多いです。具体的には、池沼の畔とか、河口部の河川敷とかですが、例外的に人工的に整地された人工の草地なんかに来る例もあるようです。

カマキリって実は世界中のほとんどの種類が南方系で、日本産の種類もほぼ全部が南方系(東南アジアなどを中心に繁栄してるグループ)なんですが、このウスバカマキリだけは北方系(旧北区=北半球、ユーラシア大陸北部やアフリカ北部)に繁栄してるグループです。変わってますね。




コカマキリ Statilia maculata Thunberg, 1784
CA3I1132.JPG
(2012年 青森市 ♂)

成虫は♀で最大60mm弱といったところ、名前の通り小ぶりな種類です。体色は主に褐色で木肌や枯草のようなうっすらとした斑模様が見られます。前脚の脛節・基節には黒い帯状の模様があります。この模様のせいか、主観ですが「地味だな~」とは思いません。
体色の通り、どちらかと言うと好地上性らしく、荒れ地や草地で見る事が多い(みたいです、調べた限りは・・・)

・・・実は、平成に入ってから県内で発見されるようになってきた種類で、クロアゲハ系のパターンと同じく日本海側周りで秋田から北上してきたものと思われます。個体数は少ないですが段々各地で見られるようになってまして、自分もその実状を知らなかった時期(何年も前です)に青森市新町野付近、十和田市奥瀬宇樽部で観察した事があります。






偶産、もしくは今後北上して青森でも見られる可能性がある種

チョウセンカマキリ Tenodera angustipennis (Saussure, 1869)
体長は成虫♀で90mm前後、オオカマキリと同じか僅かに小さいくらいです。体型・見た目はほとんどオオカマキリに似ているのですが、
・前脚の付け根がオレンジ色である事
・後翅の黒みがほぼ全くない事
で判別が可能です(オオカマキリの画像を参照)
生息環境はオオカマキリとはっきり区別がつけられないようなんですが、卵の形は違っていて、縦長で草木や壁に貼り付けるような形をしています。

国内分布は、本州・四国・九州~などと書かれているんですが、安定して生息しているのは関東以西で、東北では珍しい種類です。本種はもともとただの「カマキリ」と呼ばれるほど普通種なのですが、それは北日本を除いての常識なんでしょう。ウスバカマキリのところでも書きましたが、世界的にはほとんどの種類が南方系で、国内分布の中心は南・西日本なんですよね。
記録があるのは岩手・秋田までで、この辺りになってくるとやはり発見例が稀なのか、見つけたら報告の価値が生まれてくるのでしょう。また、以前に北海道での発見例があるんですが、これらは本土から持ってきた植木などに卵が紛れていたのが孵化した(偶産)ものだと言われ、北上による定着の他にこうしたパターンで発見される可能性も今後あるかもしれません。




ハラビロカマキリ Hierodula patellifera Serville, 1839
体長は♀成虫で最大70mm程度と中型です。体色はオオカマキリと似ていますが、体型は寸詰まって太く、名前の通りです。前翅中央外側に白い斑点が付いています。
草原性というよりは樹上性で、生息地ではわりかし高い場所に居るようです。卵は、オオカマキリほどは立体感はない楕円形で、木の枝や壁面に産み付けるとの事。

これも、実は青森県に定着しているか疑惑があり、「見たことあるよ!」と言う人がたま~に居るのですがこれも植木などに紛れて関東などから持ち込まれた個体を発見したに過ぎない可能性が高い偶産種と思われます。
北日本では、福島で2~3年に1回くらいで報告があり、宮城の辺りになってくるともはや発見しても偶産扱いのようです。日本海側では、新潟でレッドデータブック入りしていて、チョウセンカマキリと比べるとこちらの方はまだ本県入りするのは(偶産以外で)まだまだかな~と思われます。




ムネアカハラビロカマキリ Hierodula sp.
体長は♀成虫で最大80mm程度。「ハラビロ・・・」と名前が付いておりハラビロカマキリに近縁ですが、より大型で、身体の腹面が赤みを帯びています(個体差あり)

本種は、もともと日本には居ない種類でした。
近年、中国から箒などを輸入する際に紛れ込んできたとされ、初めて発見された中部日本(福井だったかな?)から次第に分布を広げ在来種の生息を脅かす存在として注視されています。カマキリなので、在来種の別のカマキリの餌の取り合いで競合してしまう他、別種同士のカマキリで共食いも起こり得ます。実際に、本種が多くなってきた地点では在来のハラビロカマキリが減ったと云う報告もあって、広がり方は侵略的です(しかも飛翔能力が高いのだとか)。現在のところ、福島県福島市まで来ている事は調べられましたが、耐寒性によってはこの先北上してくる危険性があります。
また、本種の生体を国産種だと勘違いしてオークションで売っていた例も今年あったらしく、そうなってしまうともう救いようがないですね。




ヒメカマキリ Acromantis japonica Westwood, 1889
体長は♀成虫で最大35mmほど、普通のカマキリのイメージからするとかなり小さいです。
分類としてはハナカマキリに近いとの事。幼虫は、初令の頃は黒くアリかサシガメ類の幼虫のような体型で、本種に限った事ではないのですが幼虫期に腹を反り返らせる事ができます。
樹上性で、振動など与えるとその場から落ちて擬死を起こす事が多いです。

分布の中心は西日本で、勿論青森県から見れば全く馴染みが無い種類です。そりゃぁハナカマキリに近縁で南方系の種類ですからね。ハラビロやチョウセンよりも青森から遠い種類です。
昭和後期までは近畿・北陸の日本海側付近が北限とされていたようですが、平成に入り段々と記録が北上し、10年近く前にはすでに秋田県秋田市まできています。青森県に入ってくるとしたら、やはり西海岸回りと思われます。




Asai tsutomui Sekine, 1953
体長は170cm弱、別種に擬態することに長けています。都会性で、高所で見られる場合がありますがじっと見ているとよく落ちます。
分布は東京都のみですが、各地で偶産の記録があります。
ちなみに、rabbit sekinei Katsura, 1975 と記載され一般的に広く認知されていたものは現在はシノニム扱いとなっています。




Sugoize teruyukii (Kagawa, 1965)
体長は170cm前後、別種に擬態することに長けています。「チョアーー」と鳴くことがあり、非常に悪食で様々な昆虫を捕らえることから、近年非常に注目されています。
東京都に分布していますが環境の適応範囲が広く、やや侵略的性質を持っているのも特徴です。





以上です(すっとぼけ)
国内産のカマキリはまだ西日本産や沖縄産の種類もいくつかあるのですが、それほど多くはありません。・・・とは言え、書き始めてから時間が結構かかってしまいました。

カマキリの写真も今年久しぶりに撮った事もあって、なんとな~く記事を書こうと思っただけではあるのですが、10年近く前に撮った写真が使えたのはスカッとした気分です。

KIMG3320.JPG
nice!(1)  コメント(2) 
共通テーマ:芸能

nice! 1

コメント 2

コメントの受付は締め切りました
人科のオス

青森市で初めてコカマキリ捕まえました。オオカマキリ以外初めて青森市で見ました!
by 人科のオス (2023-10-08 13:33) 

会長

人科のオスさん、コメントありがとうございます!

コカマキリ、見つけましたか! 旧来、青森県(市)民にはオオカマキリ以外認知されていないと言っていいほどで、全く見た目の違うカマキリの発見は衝撃的だったことでしょう。
コカマキリは年を追うごとに分布域と個体数を広げています。自分もこの記事を書いた2021年時点では記事中に書いた2個体くらいしか人生の中で見ていませんでした。ところが、今年ワケあってカマキリ探しをした結果、その100倍の数を見つけてしまい驚嘆しました。思っていたより、青森市内のコカマキリはメジャー化しているようです。
by 会長 (2023-10-08 23:58)