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2022年オオクワガタ採集 ― 8月豪雨の後に ― [日昆 採集記 【2022年】]

2022年青森県ニホンツキノワグマ.jpg

2020年・・・そして2021年と、2年の間は夏のオオクワガタ採集は気晴らし程度にしかやっていませんでしたが、この2022年にまたオオクワガタを狙いとした採集を再開しました。


しかし、自然相手のこと。
―――そう思い通りにはいかないもので・・・



採集 と 8月の二度の豪雨
6月7月と、毎年ながら青森県のフィールドは天候が読み辛く、また、梅雨前線がなかなか北上してこない期間が続きました。ライトトラップでのオオクワガタの採集報告も、岩手県や北海道からの報告に遅れて7月に入ってようやくと云った感じでした。

それ以降も、本格的に発生(採集報告)が盛んになってきたかどうかの判断が付きにくい期間が続き、そのまま例年であれば1次発生のピークであろう時期をも過ぎてしまいました。
こればかりは採集者それぞれの都合なので仕方がありませんが、仕事の都合で県外へ離れてしまった者・諸般の事情により採集へ行く頻度が下がった者・新規産地や稀少産地に傾倒する者など、情報を交換する仲間内から採集報告が挙がりにくくなった事が大きな要因でした。

とは言え、伝聞その他も含めてちまちま採れていたのですが、
8月に入るや否やぱったりとその話も立ち消えてしまいました。

その原因こそ、記憶にまだ新しい8月の二度の豪雨です。
岩木川8月16日.jpg
(避難指示・警報が解除されている時に撮っています)

1~3日と、9~15日頃と、それまで経験した事の無かった量の降水があり、青森県で初となる線状降水帯が津軽地方で確認されました。

鯵ヶ沢町では中村川が氾濫、岩木川流域も一時は氾濫危険水位まで上昇、今別町‐外ヶ浜町平舘の海沿いの道で土砂が崩れ通行止めなどと、人の生活圏内でも深刻な被害を受けています。言うに及ばず、それ以外の河川の増水・山の土砂流出による道路の崩落も相当な数に上ります。

結果的に、山へ向かう道路も各地で封鎖されてしまい、8月前半は採集どころではなくなってしまったのです。





次に、自分のライトトラップ採集のそれまでを振り返っておきます。

2022年ライトトラップ24回分日付入.jpg
山に行き始めたのは6月16日
この頃はまだ夜間の気温も低く、標高も200m無い程度の場所で19℃スタート、22時前の消灯時には17℃未満まで下がり終了しました。そんな中、幸いにもミヤマクワガタ♂が飛来し、夏の口火を切る事ができました。

しかし、そこから山通いが加速する事はなく―――と云うか出来ず、この時期採集ばかりに時間を費やしてはいられなくなり、7月上旬まではあまり動けませんでした。

ようやく採集一本で時間を割けるようになったのは7月10日以降。
ここから、天候の良し悪しでどこかしら適したポイントを選定しては山をライトアップしに行っていました。
強い雨や風で県内のどこにも逃げ場所が無い日などは休みを取っていましたが、逆に「良さそう・悪くなさそう」と云う日が続けば平日も休日も関係なく出撃していたので、7月下旬には体調を大きく崩してしまった時もありました。機材一式を担いで山の斜面を何度も往復したり、採集の途中で猛烈な土砂降りに見舞われそのまま2時間(傘も差さず車にも退避せず)立ち続けたりと云う事も複数回経験しました。


そんな無茶? 努力? を続けた結果、
採れたオオクワ、―――その数なんと0。【 ゼ ロ 】です。

地元の採集者が地の利を生かして24晩もライトを焚いてこの有り様。
いや、ウチはオオクワ採集の腕前が売りではないので恥ずかしくはないのですが、一応言い訳しておくと前の記事で書いた通り、既に家にて産卵セットを組んでいる採集済みの2市町村を封印して他の高難度市町村に挑み続けていたからです。
―――むしろこういう事を言うから恥ずかしくなるのでは・・・


内訳は、【通い】が5ヶ所、【一度きり】が4ヶ所。どこからか「この欲張りめ!」と云う声でも聞こえてきそうです。
青森県は、市町村ごとに難易度を分けると「その都度やり方を合わせて通えばちゃんと採れる」のは有名なアソコ1市町村くらいで、それ以外の市町村となると専門各書に報告済みの場所も含めて「頑張っても採れない」ところばかりになります。まぁ通えばなんとかなるところも1つあるんですが、それ以外は不可能級の難度です。
中には、
ある人が4年を費やし時期を見ては毎日ライトを焚き、その蓄積の末に史上初が採れたと云う市町村もあるし、
ある人が気象条件ドンピシャのタイミングで1♀採ったけど、そこへ辿り着くまでの林道を通れる機会が不安定と云う市町村もあります。

自分も実は今年、1ヶ所に絞って通い続けていたら―――もしかしたら採れていたのかもしれない―――なんて思う話もありました。
その日、空気を読むのが苦手な自分でも「今日は採れる!」と確信が持てるほどのコンディションで、地道に通っていたポイントではなく、欲を張って標高がより高く「採集例が過去1♀」の高難度ポイントへ突入した結果・・・空振り。後日、件のポイントで同日に別の人が1♀採っていたという事を、某フリマサイトの出品されていたのを見て知ったという。

グダグダと言い訳しても、
結局採れていないと云う事実は変わらないワケです。





8月突入と同時に豪雨が続いたため、
一旦県内のライトトラップ勢は強制的に足止めさせられます。
お盆期間を直撃したと云う事もあって、県外から遠征で採集に来た人もかなり少なかったそうです。




8月17日 ライトラ 第25夜
連日の大雨がようやくおさまったこの日。
今期としては初めてとなる「メジャー産地市町村」を目的地として車を走らせました。


これを読んで、「会長、アンタもう諦めたんだろ!?」 と言われても仕方ないですが、これだけ猛烈な雨が続いた事もこれまでに無く、その直後にいわゆる希少産地のエリアの個体がライトに掛かるかは疑わしかったのです。

突っ込んで説明すると、―――これはあくまで現時点での自分の仮説に過ぎませんが―――自分はその地点でライトを焚くかを決定する際に、その付近の当日日中から1~2日前までの天候もチェックしてみます。
この時、
プラス要素 夜間気温が高い
湿度が高い
低気圧
風が穏やか
 等々…
マイナス要素 夜間気温が低い
大雨
強風
 等々…

の2つをざっくりと計算し、その要素がプラス‐マイナスのどちら側に・どれくらいの振れ幅で蓄積されている状態かを考えます。
飛んで移動しようとするクワガタ各種の側に立って想像するに、この要素がそれぞれどちらか一方に大きく蓄積されていると飛んで移動しやすく、ひいてはライトトラップに掛かる確率が上がるのではないかと思うんです。

プラス蓄積 後食する樹液の匂いなどの誘引因子が林内で安定する
大雨による空気中の匂いの洗い流しが無くなる
土砂からの臭気が落ち着く
後食場所での♂同士の衝突が起きやすくなる
→小さい♂が追い出され、別へ移動する必要に迫られる
♀は交尾相手と出会う機会が増える
→産卵場所を探しに行く
 等々…
マイナス蓄積 低温・風・大雨により移動できない期間が長く続く
→虫の空腹感が強まる
大雨により土砂崩れが起き、土砂の臭気が邪魔になる
大雨により虫の隠れ場所に水が溜まりやすくなる
隠れ場所から虫が出ていかざるをえなくなる
 等々…

言ってみれば、
プラス蓄積は「クワガタの活動が活性化し、その結果として飛翔個体が増す」
マイナス蓄積は「クワガタの活動が長期間停滞させられ、飛ぶ事を強制させられる」
と云う感じの違いです。

ただ、多産地と希少産地ではライトトラップへの影響が違い、
多産地では「プラス蓄積でもマイナス蓄積でも飛来する」
希少産地では「プラス蓄積では飛来するがマイナス蓄積では飛来しない」
と考えています。

↑↑この違い、説明の初めに書いた通りあくまで自分の考えであって根拠も薄いし検証も厳しい話ですが、ポイントとなるのは「その時の飛翔個体数」と「ライトへの飛来個体数」にどれくらい差があるのかという事。
たとえ月明かりが無い前提であっても、その付近一帯で飛んだクワガタが全てライトを目指して飛んでいるのか? 明かりに反応せず飛び立ったクワガタはどれくらいいるのか? そのライトの明かりがどのくらいの距離にいるクワガタに視認されているのか? ライトに飛んで来たとして、その内どれだけの数の個体が途中で止まったり逸れたりしているか?
分からないし検証しようもないのですが、飛んだ個体が皆ライトに飛んできてるワケではないでしょう。そして飛んだ理由が「目的地を探すため」と「現状その場から離れるため」だったら、ライトが及ぼす影響もそれぞれ変わってくるのではないかと思うんです。
なので、そもそもライトの照射範囲でその晩1頭飛ぶかどうか?と云う希少産地ならば、その1頭が飛んだ背景も加味すべきなのかもしれないと思うのです。

さらにそこへ、1次発生周期・2次発生周期、月齢周期と云った要素も含めると、全くもって想像と結果が結び付きません。



―――本筋の話よりずっとディープな話題に首を突っ込んでしまい―――しかも本人すらワケ分かんなくなってしまいましたが、以上の話を総括すると、「希少産地は今はどこへ行ったとしても採るのはムリ!」って事。
だからこそのココなのです。

それに、採集ポイントが複数点在するメジャー市町村とは言え、この中で過去に自分がオオクワを採った場所はごく少数。ブログ説明用にあえて産地表記別に数えると6ラベル。あれ、意外と多い・・・?
採っても標本に残さなかった所のものもあり、当地から完全に興味を失っていたワケでもありません。





19時過ぎ頃、現地に到着。

この日は気象条件もウマく揃っていたのですが、着いたのはこのエリア界隈では比較的採り辛いポイント。標高・地形により気温が低くなりやすく、風の影響を受けやすいです。また、場所柄「配慮」が必要だったりと(詳しくは伏せます)、諸々の要因により採集しにくいポイントでもあるため、「場所さえ取ってしまえば後は・・・」みたいな他の一級ポイントと違い、「そこでのライトのやり方を知っている人が、他に入る場所が無かった時に入る」ようなポイントと言えるかもしれません。

しかし今回自分がここへ入ったのは、何も別に「入る場所が無かったから」ではありません。
ここの個体を採ってみたいと以前からずっと思っていたからです。

この場所、在りし日は指折りの昆虫採集スポットでした。
自分が中学生の頃に、懐中電灯を持って父親と一緒にクワガタを探した思い出のある数少ない場所です。しかし、今となってはその様子も変わってしまい、ただドライブで立ち寄っただけではクワガタなんて採れません。
ライトトラップの持ち込みが前提条件なため、今がちょうどいいタイミングだと思ったのです。


到着して現場の環境を再確認。
注意すべき事、機材を置く位置、ライトを向ける方向を確認。
温湿度計を置いて現況把握。

付近も暗くなって久しく、機材を設置します。

初めてと言う事で、気合を入れて3つのライト機材を展開しました。
照射方向の側から順に、
生息エリア奥から引っ張るためのリードとするHID懐中電灯
山の斜面を広く照らして一帯の虫を寄せるメインの投光器
風で流された個体を落とす補助灯
①のリードを配置するのは、メイン灯で照らす場所が本来虫を引っ張りたい場所よりも射角が浅いと思えたからで、かつ①の位置には大型機材を場所柄置く事ができないのも理由です。
また、両端に置いた①と③の間は約120mの距離があります。


スマホを確認してみるも、知り合い達からは特にどこのポイントに入座したとの連絡もありません(しいて言うなら津軽の別地域に1人)。やはり、この数日の豪雨により、この地域への足が遠のいている人が大半なのかもしれません。ただ、見回りしている人から、他の場所に採集者がいたと云う話は聞く事ができました。


頃合いの時刻となり、19時45分頃に点灯開始。

ライトトラップイメージ.png
現場写真どうすっかなーと思ったのでいらすとやでイメージを・・・
便利!(スクリーンは張ってません)


ジワジワと虫達も引き寄せられ始め、小さな甲虫も飛んできます。
当エリアこの時期の不快昆虫の筆頭・エゾハサミムシもチラチラ見えてきました。

さて、120m間に3つ掛けたライトの見回りはどうやってるのか。
「まさか・・・」と思われた諸兄諸姉、その通りです。ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!でライトからライトへ疾走します。この場所、虫の落とし場所の総面積を考えるとそれなりに広さがあり、風も影響して虫の落ちる場所が安定しそうにも思えません。そして何より例の「配慮」とやらが必要なのであまりライトを離れてブラブラしてはいられないのです。
落ちた虫の確認・確保→ライトの付近で待機→虫の飛来具合を見ながら光軸調整→次のライトへ→落ちた虫の確認・確保→・・・と繰り返します。
おまけに、HID懐中電灯のバッテリーが切れやすく、フッと明かりが消えたらすぐさま交換に向かいます。

クワガタも、僅かにですが飛んでくるようになりました。


時刻は、20時を回ってしばらく経ちました。

走り回っているのとクワガタの飛来がそれほど多くない事が相まってか、時間が経つのが随分と遅く感じます。自分でも「これはやり方として有りなのか??」と分からないまま120mシャトルランを続けます。


収容ケースを見てもまだ大して他のクワガタも入っていない、20時20分過ぎ

メインの見回りでライトの前方10mちょっと先の地面に、なんか歩いてら・・・

近寄っていくと・・・



ッ、 アゴが見える! コレは!!!!!


2mの距離まで来て一旦立ち止まり、急いでカメラ起動。


2022発見1.png

これってアレだよな!? 間違いないよな!!?


ジワッと近づいてもう1枚撮っとこう!!!



2022発見2.png
ハッ ハッ ハッ キ キターー!!!
走り回っていた時のとは別の感覚で心臓がバクバクしました。

リングライト(by CanCam)を取り出し、スマホと一緒に近付け近写。


2022発見3.png
令和4年、1頭目。

20220817オオクワガタ.png飛来の瞬間を見ていなかったのはちょっと勿体ない気もしましたが、せわしなく歩き回っていたので仕方がありませんね。

オオクワの♂を野外で見るのは実に2年振りなので、見えた瞬間は6cmもあるように見えてしまいました。・・・まぁそれだけ衝撃的に感じたと云う事でもあるのでしょう。


まさか来たのが♂とは思わなかったので、これは♀も採ってブリードするでしょう!?とさらに欲が湧いてきました。


気温はこの時期このポイントとしては上々の20℃以上をキープ。
雲も少し抜け気味ですが上空に広がっています。

1頭オオクワが採れたので、精神的には本当に楽です。
普段なら飛来してもイラッとくるガムシやカブトムシも、「ハハッ、なんだ来たのかおまえ~♪♪」くらい余裕で見守っていられます。

ただ反対に、体力的にはどんどん疲弊していきます。
点灯開始から2時間ほど経過したあたりからなんだか左足が鈍く痛み出しました。

リードHIDが何度目かのバッテリー切れを経たところで、手応えを感じられず撤収。この時点でクワガタの飛来は、メインが7割、補助灯が3割というところ。リードはクワガタゼロで雑虫すらほとんど見られず、風の向き・強さによる不利さも含めて「リードは意味無し」と判断しました。


1頭目に沸いた20時半頃からまた現場は沈静化し、21時台も静かに過ぎ去ってしまいました。
これは焦る、焦る! ―――と云うのも、この日は月齢が18(満月がちょっと痩せたくらい)で、月の出が21時50分
月が見えてくるともう飛来が期待できないので段々心細くなってきます。

月の出の時刻となり、そして遂に時刻は22時10分山の向こうから月が見えてきてしまいました。
終わった・・・


ところが、月光がだんだんと見えなくなってきました。
なんと運の良い事に、さっきまでは薄くて頼りなかった上空の雲が厚みを増してきたのです。
いつ止めようかとフワフワしていた22時台前半とは打って変わって、コレはイケる!!! とすっかりその気になっちゃいまして、左足の痛みを押し殺して続行したのは言うまでもありません。


とは言え、20時台21時台でもあまり勢いを感じなかったクワガタの飛来はさらに減りました。気温も19℃を切り、わずかながら風も強くなった様に感じます。

遅い時間帯になると、クワガタが来ればそれはオオクワと云う率が高くなってくるのが定説ですが、やっと来たかと思えばノコギリやミヤマ。
やはりメジャー産地とは言え採りにくいポイントだし相手はオオクワ・・・24時を回り日付も変わると、そんな風に冷静に考えるようにもなってきました。


そんな中、静寂を破って投光器の背後から水平に、
低空飛行で黒い影が大きな羽音を立てて飛び込んできました!



ウワ!! キターー!!!


俄然興奮してスマホを手に駆け寄る!!!

近付いて確認!!!

ウォォォォーーー!!!!


・・・


・・・


・・・ミヤマの♀かぁ・・・


・・・止めるか・・・

消灯し、撤収作業を始めたのは深夜1時の事でした。気温は18℃ちょっと
この頃には、ライトの周りでウロチョロしていたエゾハサミムシはほぼ消え失せていました。また、他の雑虫に関しても、纏わり付く個体数はごく少なく、ブロワ作業もサッと終わらす事ができました。


ちなみに、他に目を惹いた昆虫もいくつかいたので写真に撮っておきました。
2022オニ.jpg
ペアで見たのはこの日が初めてだったかな?
今年の青森県では結構珍しいと思います。

20220817コクワガタ.jpg
イヤらしい時間に飛んで来ました、月の出以降も採集を続けさせたのは多分コイツが来たせいです。ちなみに、コクワで来たのはこの1♀だけでした。持ち帰りましたよ。

20220817カブトムシ.jpg
キレイ過ぎて持ち帰ろうかと思いました。

20220817ヤママユ.jpg
キレイ過ぎて持ち帰ろうかと思いました。


深夜を回っての帰路、いつもなら疲労と虚無感で眠気に見舞われながらのドライブでしたが、今夜ばかりは充実感と幸福感、そして左足の痛みで眠気はすっかり飛んでいました。

ちなみにこの夜、他にも同エリアの2地点においてオオクワが飛来していた事がのちに分かりました。どうやら2次発生と思われる♀のようでした。





・・・さて、家に帰って改めて採集個体を観察してみます。
2022年採集♂
↑↑画像にオンマウスでややハイライトが強い画像になります

体表には、数々の擦り傷や引っ掻き傷、そして欠けが見られます。
大腮にすら傷が付いていますが、普通樹皮や材部を齧ったりこじったりして付くようなものでしょうか? 小さく強靭な大腮を持つ昆虫(♀個体やスズメバチ)に攻撃されたように見えます。
腹側から口ひげを確認すると、小腮枝が片方切れていて、切れていない方も節が可動せず曲がりません。

触角や脚が無事なのは幸いでしたが、これほどの傷が付いていると結構古い個体なのでしょう。ひょっとしたら今年の1次発生ですらなく、去年羽脱した活動越冬個体かとも思えます。

KIMG4385.JPG
体長は47mm

鈍いツヤのある大型個体の体表も美しいですが、小型個体の点刻のハッキリ出た体表も個性的ですね。
(こうしてじっくり小型個体にスポットを当てるのも、採集個体ならではでしょうかね・・・)


そして、傷が痛々しい大腮をまじまじと見てみると気が付いたのですが、

KIMG4390.JPG
こんなのあったっけ?
内歯の裏(下)にもう1本、内歯のような突起が付いています。今までオオクワの小型個体を見る機会はあまりなかったので知りませんでしたが、この突起って当たり前に付いてるものでしたかね? ♀みたいで面白い形状です。



さて、そんな貴重な♂個体を眺めうっとりする反面、
当初たった1日メジャー産地で気分を味わうだけのつもりが→♀を採らなければいけない切迫感が生まれてしまったのには困りました。




8月20日 雨の奇襲
♂を採った翌日18日、当地は雨&低温。


19日は風が全県的に強めの予報で、かのポイントも風向きは不適。

と云う事でこの2日間は休んでいたのですが、別のポイントに関しては事情が異なり、19日に某ポイントへ入った弘前クワガタ氏(FH鈴木さんのホームページでの呼称にならって)1♂2♀♀の2次発生個体を採集していました。





そしてこの日。

現地で最たる敵となる風向きも問題なし!
気温も保ちそうな予報だったので、着合い十分でポイントへ向かいました。


ところが。

現地に近付いてきたあたりで眼前の景色が雨で真っ黒に変わってきました。しかも降り方が激しい。

現地に到着し、スマホで天気アプリの雨雲レーダーを確認すると、
18時40分頃からこの一帯だけ容赦ない降雨に見舞われていた事が判明。


しばらく待っても、弱まってはきたものの止む様子は見られず、かと言ってポイントを移る考えは毛頭無いので、19時半に決死行を開幕しました。




・・・



・・・



・・・



・・・ああ、やっぱりダメだぁ・・・

20220820雨.jpg
ガですらほとんど来ません。
クワガタが来るのも稀。

気温は21℃以上と高いですが、さすがに夕暮れ間際に大雨に降られてはどうしようもないですね。

クワガタが総数で3頭4頭しか来ていない21時の時点で、諦めて敗走する事にしました。




8月21日 懐中電灯1本 vs 低温
「雨さえ降らなければ採ってたのにムキー!」などと前夜の事を小物感たっぷりに負け惜しみつつ、天気予報をチェック。

風も問題なさそう、そして昨日泣かされた雨の心配もどうやら無さそうです。

と云う事でこの日も同地へ向かいました。
(「同じ場所に2日続けて入って誰かの顰蹙を買わないかな」と云う不安も一瞬過ぎりましたが、よく考えたら不人気ポイントだからあまり気を使う必要ありませんでした)




しかし、現地へ到着すると予想もしていなかった事態に直面したのです。

詳しい説明は情報秘匿のため伏せますが、ハイワット機材を使う事を控えざるを得ない状況となっていて、これまでメインのライト機材を設置する場所が使えなくなっていました。
―――やっぱりこのポイントってめんどくさいな・・・



ライトトラップイメージ HID懐中電灯.pngしばらく待っても状況は一向に変わらず、かと言って別の位置にハイワットの投光器を設置するのも躊躇われるため、仕方なしにリード地点でHID懐中電灯1灯焚きをする事に。


しかし、もう既に結果は見えていました。

と言うのも、絶望的な15℃台と云う寒さ。原因は空を見れば一目瞭然、雲一つ無くきれいな星空で満たされています。そりゃ雨の心配無いのも当然だよな~

しかも、強いとは言わないまでもはっきり体感する程度の風は吹いています。照射方向に対して向かい風なので、向きはバッチリではあるんですがこれはただただ低温を煽っているだけです。


念のため、微調整を繰り返しながら21時頃までは頑張ってみましたが来たのはムラサキトビケラとアキアカネとガムシくらい。
青森の虫なら15℃くらいで寒がってんじゃねェよバカヤロー!!!!!
などと言ったところでオオクワに通じるワケもなく。


早々に撤収して別ポイントをサラッとチェック。
こんな低温の日に来る人も一応いるんですねぇ。
(いや、自分の居たポイントが特別寒かっただけなのでしょうけど)




8月24日 2次発生に望みをかけて…
24日の話に入る前に、前2日間の話を少ししておきます。

低温に震えた21日からうって変わり、22日は夜間気温も上がり天候も安定しそうな予報になっていました。ただ、風向きが惜しくもちょっとずれており、今期のそもそものメインだった別市町村=難関産地への挑戦へ舵をきりました。

なお、その日中に、弘前クワガタ氏から「件のポイントで焚いてみる」との相談があり、そのポイントでやる際の注意点・置き場所・難点など諸々アドバイスして送り出していました。

そしてその夜、「日昆会長らしい」ドロドロでクタクタになるライトトラップを行ない、見事に轟沈。機材のセットアップで時間を費やし、点灯したのが20時半頃。初っ端にコクワが来たものの以降はノコギリとミヤマが僅かだけ・・・。遅い時間帯になっても18℃以上はキープしていましたがクワガタの反応はすっかり消えました。22時半前に消灯し、機材を撤収して現場を後にする頃にはもう24時近くになっていると云う苦行でした。

帰路、電波圏内にまで戻ってきたところLINEアプリのメッセージを受信。
見ると、中学時代の同級生Dからの採集報告。彼は数年前に本格的に昆虫に触れ合うようになって以降採集に情熱を注ぐフリークと化してしまった人物で、この晩は有給休暇を申請までしてこのメジャー市町村の某ポイントに入座してライトを焚いていたと言うのです。
そしてその首尾こそ驚くべきもので、なんと1♂6♀♀と云う近年稀に見る大成果だったというのです。当然、今年に入ってこれほどの数を一晩で聞いたのも初めて。爆弾魔的表現を使うなら爆発した(2桁採集出来た時に『大爆発』と鈴木さんは評していたので、これはさしずめ『中爆発』と言ったところでしょうか)ってヤツですかね。
内訳は、1♀だけが欠けや擦れがある1次発生で、それ以外は皆傷も欠けも無い2次発生個体でした。
飛来した時間帯は早く、1頭目がまだ19時台だったそうで、そこから立て続けにおよそ5分おきに飛んできたのだそうです。
温度も、自分の方と似たような18℃台だったので、嫌が応にも多産地と希少産地の差をまざまざと見せつけられました。(俺も機材点灯があと30分早けりゃ・・・なんて)

そして、驚いたのはそれだけではありません。

件のポイントに入った弘前クワガタ氏が、なんと1♀採ったのです。
自分としては、事前の予報で見ていた限り風が合ってなかったので、この日は何も起こらないだろうと思っていました。ところが実際はその予報は見事に外れていて、後に調べてみると風はやや強かったものの風向きはベストだった事が分かりました。
おめでとうございますとメッセージを打ったものの、言わずもがなジェラシー。



そして次の日23日

この日はメジャー市町村では午後から弱い雨。
風向きも悪く、例のポイントを含め自分の行きたかった採集地のコンディションは夕方時点で絶望的。何より、前の日の採集で疲労がかなり溜まっていたので夜は休息を優先する事にしました。

しかし、前夜の爆発の件を含めここ数日の情報の蓄積から、完全に2次発生期間が始まった事は明白だったため、知り合いの何人かはオオクワ銀座へ乗り込み、その後に各々良い夜を楽しめたとの報告が挙がってきました。





そしてやってきた24日

夕方時点の気象観測データでは、前日とは気温、風、日中の日照時間、降水と、注目すべき全てのパラメータで違っていました。
雲がほとんどなく、前日ゼロだった日照時間は午前中を中心にそこそこあったものの、気温は前日よりもだいぶ低め。
ただし風はドンピシャで例のポイント向き。

これで思い起こされるのは、低温だった21日の事。
前日の方が気温は高かったから、自分の通常の考えでいけば今日は採れない日のはずです。

しかしここ数日の情報の蓄積で、
2次発生中である
日暮れ以降早い時間帯に飛んできている個体が多い
と云う事から、飛翔個体の絶対数が多い(発生木から出た直後なので、移動はまず飛ぶ事が第一と思われる)この時期なら、気温が下がり過ぎる前の短時間なら♀1頭くらい引っ張るのも不可能ではないと望みをかけ、採集行きを決めました。
いまだに鈍く痛みが残っている左足も、♀が採れさえすれば報われるはず・・・
肉体的ダメージと精神的プレッシャーがごっちゃになって、都合のいい解釈をしただけかもしれません。

それにしても、一晩のつもりがこれで4度目。8月も末近いのに・・・
間違いなく自分はギャンブルの類に絶対手を出してはいけない人種だ・・・



21日のようなハイワットが使えない事態にならない事を祈りながら、19時前には現地へ到着。西の空がまだ明るく、景色の美しさに束の間の安らぎを覚えます。
懸念していた機材配置の配慮も今回は必要なく、メインライトを車から降ろして配置。



日没の19時01分を少し回った、19時10分過ぎに点灯。
気温は既に18℃程度と、なかなかに渋いです。



光軸の調整をしつつ、今後の天候の推移をチェックするためスマホを確認します。
自分は採集現場に電波が通じる時、地図・カメラ・月齢表などの他に、LINE・Windy・気象庁・ウェザーニュースなどと云ったアプリも開いて随時確認しているのですが、

スマホからフッと前方に目線を移すと


なんか目の前に


黒い甲虫が


飛んできて


驚くや否や


もう片方の手に持ってた網でとっさに


スウィーピング


・・・


おお~・・・入った・・・


・・・?


・・・!!!!!



ええええええエェッッ!!!!!?




慌ててスマホのカメラを起動します。
爪が網に引っ掛かり身体が裏返しになっていますが、網から引きはがしてる間に翅をしまい終えてしまいそうなのでそのまま急いで翅出し写真を撮影!

2022年8月24日オオクワガタ1.jpg
遂に決着。

今年これまで散々見てきたどのクワガタとも違う色形。
♀を採るのに4晩かかったのか・・・いつまで通うのかと途方に暮れるところでした。

2022年8月24日オオクワガタ2.jpg時刻はまだ19時半、思っていたよりもずっと早いお出ましでただただ驚くばかりでした。気温はすでに17℃台で、時期が違っていたらとうに諦めていたかも知れません。
それまでは、運に恵まれなかったり予想を外し続けていたワケですが、結果的に今回は読みが当たったと言えるでしょう。

そして何より幸いしたのは、その時手に網を持っていた事です。
既にオオクワはライトの脇で滞空している状況で、待っていても勝手に着地したかもしれませんが、浮上して弾いていた可能性も無いとは言えないため、網を振ったのは確実に意味のある事だったと自負しています(今まで何度目の前で逸れて獲物を失った事か・・・)

2022年8月24日オオクワガタ3.jpg
採集個体を観察すると、身体のあちこちにクモの糸が引っ絡まっているのが見えます。クモの巣を突き破って飛んで来たのでしょうか。

体長は37mm
体表はキレイで、前胸背板や上翅の光沢も初々しいです。
しかし、よ~く見ると弱く線傷が付いていて僅かにダニも付いています。
手に置いた時の重さや各部の末端の摩耗を見るに、2次発生個体なのは間違いなさそうですが、どうやら一度は後食場所に辿り着いているようにも見えます。さらに言えば、♂個体とも逢っているかもしれません。



さて、目的は達成したのでもう機材を片付けていいのですが、
追加も見込めそうな時間帯だったのでそのまま続行しました。


しかし、頼みの綱の19時台後半は静かなもので、
最後の1時間と考えていた20時台もまるでクワガタが飛んできません。

温度計の表示もいよいよ15℃台にまで下がり、21時を回る前に潔く電源を落とす事にしました。


風で流されたせいもあって、ライトの周りには細かな雑虫もあまり溜まっていません。
(あまりの少なさに最後にライト直下の写真を撮ろうと思っていましたが、撮る前にうっかりブロワ処理してしまいました)
20220824中型以上甲虫結果.jpg
中型以上のサイズの甲虫を集めてみても、全部でたったこれだけ。
2時間弱と、決して短くはない時間焚いていたにも関わらずこんな貧相な客入りだった事を考えると、あの奇跡的な飛来には本当に身震いがします。


その後の帰路では、ここ数日で溜まった疲労の蓄積か、ドライブの眠気覚ましにオオクワ♀1頭では流石に効きが弱かったみたいでちょっとフラつきもしましたが、どうにか23時頃には帰宅。

こうして、当地でのオオクワ採集は合計1♂1♀と云う形で終わりを迎えました。




今回の採集を終えて
もう何度も書いたことですが、当初「一晩だけ」と思っていた当地でここまでの長期戦になるとは思いませんでした。
期間としては8日かかっていて、これが長いと感じるのか短く感じるかは人それぞれで変わるでしょう。自分としては、♀を採った直後には「長かったな」と思いましたが、今はそう思いません。

―――と言うのも、それ以前は未記録産地・希少産地を追い求めるあまり、多産地に対して甘く見過ぎていたところがあったと思います。今回はそんな、「とりあえず行けば採れるもんだろう」と舐めてかかった自分に喝を入れてもらったと解釈しています。
(他の採集者・有識者に対してもなんか失礼ですよね)

それに、今期はお盆期間直前までの大雨で採集者が大幅に減った事で場所取りも楽でしたが、普段の年ならそうもいかなかったかもしれません(平日でも来れる地元採集者から見たら敬遠したいロケーションに見えても、県外からはるばる来た採集者の目から見たらどこも大して変わらない風に見えているかも)。そういう意味でも恵まれていた方だったと思います。



そして現在、採った個体達に対して、何か使命感のような精神的プレッシャーを感じてきています。
詳細ラベルを付けて管理した場合、今回の産地は他でよく採られ出回っている産地ラベルとは別物になり、累代品を見つける事もなかなか無いと思われるからでしょうか。

界隈の採集事情も昔と比べてゆとりが無くなってきており、見る機会も減るのではないでしょうか。そんな個体達が「ただ飼い殺して後には何も残っていない」と云うお粗末な最期を迎える事だけは避けたいところ。出来る限り末永く累代していきたいと思います。

2022年採集オオクワガタ青森県.jpg
2022年オオクワガタ採集 ― 8月豪雨の後に ― 

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