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最果ての採集 [日昆 採集記 【2021年】]

  7月11日(日)

2021年、夏の採集シーズンが始まって既にひと月は経過しただろう。
梅雨明けした南日本だと、「ここからがいよいよ本当の夏」なのかも知れないが、暑さについてだけ言えば青森は今頃が夏の盛りである。この数日で刹那のピークを迎え、夜の気温からズリズリと下降し秋の季節に変わっていく。

現在、今年の採集の主軸である青森県産コクワガタ採集は過密気味のスケジュールで進行中である。コクワ相手とは言え県内全域ともなると、体力的にも時間的にも消耗が激しい(あと金銭的にも)
故あって今年の内に全ての市町村を採りきらなければいけないのだが、まだ8ヶ所ものエリアが残っている。


この日、自分はその残された8ヶ所の未採集エリア・・・ではなく、
市町村単位としては既にクリア済みだったものの「ここのラベルは採っておきたい」と云う考えのもと、県内某所へ向かった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


方。
今シーズンにしてようやくしっかりめにライトトラップを始める事もあって、準備では慌てた。今回は発電機ではなくHIDハンディライトを使う為、充電済みのバッテリーを確認し、三脚とホルダーを確認、撤退作業用の箒も忘れずに! LEDライトと替えの電池は持ったか!? 熊スプレーも抜かりなく。虫用のケースに網もきちんと積んだな。
おっと、もう17時20分
これ以上チンタラしてられないと、車のキーを回す。
(「キーを回す」って言うのもアレな時代になってきたのかな)

時折フロントガラスに微かな水滴が付くものの、本降りになる様子は無い。
KIMG2709.JPG
道中通りすがった野辺地湾での空の様子。
晴れそうもなく、かと言って雨も降らなそうなほどほどの曇り具合である。これからライトトラップに行く身としては、とてもいい天気だ。

そんな良い気分のドライブ中ではあったが、ライトトラッパーの意識が少し戻ってきたのか、ある事を思い出した。

・・・温度計を持ってくるの忘れてた。



てここで、今回の目的地とその理由について説明する。

上の画像では野辺地町を経由した事が判るが、この日の目的地はむつ市である。
ここのコクワガタは、先月末に訪れており旧 むつ市内にて既に自己採集済み。
しかし如何せんこのむつ市と云うのは、先の平成大合併の際に近隣の町村を併合しており、広大な土地を半島内で占めている自治体。市街地近辺でたかだか1・2ヶ所採った程度では、個人的に満足とは言えないのである。

そうなると、コレクションとしてラベルの分散を図るには編入合併された旧 大畑町・川内町・脇野沢村へ赴く事になるのだが、この3つの地区の内、大畑と川内については下北採集の道中通過する事が比較的多いのに対して、脇野沢は半島の西南端に位置しており交通の要所も無い為あまり行くことが無い。
そこで今回は、この脇野沢を狙ってみようと考えたのだ。

さらに、その脇野沢の中でも特に採ってみたい地区があり、当初から狙い目として設定していた。

九艘泊と云う地区を知っているだろうか?
「くそうどまり」と読む。船が9艘ここへ泊った(難破か来泊かは諸説あり)事を由来とする説や、アイヌ語が元となったとする説もあるが確固たる証明は無い。
県内の者でも、地元の方やある年代以上(60代以上?)の方、魚関係に明るい方以外は聞き馴染みが無い場所かもしれない。

以下、地図で指し示すと矢印の部分が九艘泊である。 長尺青森県図.png
下北半島の西南端、陸奥湾に突き出る海岸部の地区であり、この地区がむつ市最奥地・行き止まりの集落なのだ。

地図をもう少し拡大すると、その辺鄙さが分かってくる。
kusoudomari.png
人の生活圏として下北半島の中心となっているむつ市街地から路線距離を測ってみたところ、他に人が住んでいる中では奥地に位置する
川内 湯野川地区(下北半島のほぼ中央部)
脇野沢 源藤城地区(同じ脇野沢の、山方面にある最後の集落)
よりも遠かった。さらに言えば、半島最北端の大間町中心部への距離と同等でもあった。
距離に比例して現地へのアクセスも時間を要し、フェリーも脇野沢へ通っているが基本的には自動車移動で、むつ市街地からでも1時間、青森市からとなると丸3時間も掛かる。 間違いなく、現在のむつ市内では「最果て」と呼べる集落だろう。
この、「最果て」だとか「最奥地」などと言うべき土地にロマンを感じてならない。これこそが、今回の採集地選定の理由であり、これは大間産や佐井産、津軽半島の三厩産あたりについても言える事である。

この地区については、民俗調査として青森県立郷土館が詳しく調べており、1979年に「九艘泊・蛸田の民俗」調査報告書を刊行している。
これによると、歴史的な面ではこの村の存在を示す資料は17世紀中盤頃からあり、19世紀は戸数が10前後で昭和後期あたりは戸数も増えて人口も200人近く居たとの事。当時から今も変わらず生活の中心は漁業と密接に関わっており、地区のほぼ全ての人がそれに携わっていて、行事や伝承なども海や漁に関連するものが多い。
地理的には、山の斜面がそのまま崖となって海に落ち込むような中で、小さな入江付近の僅かなスペースを居住地として利用している。その為、集落自体は非常に狭く、農業を行なうような一定の広さの土地も無い。なお、九艘泊地区はすぐ手前の芋田地区も分村扱いとしており、現在ではこの2つの両方が九艘泊と住所表記されている。
そして交通についてだが、前述の理由から、なんと1960年頃になるまでまともに歩いて通れる道路が存在しなかったらしい。それまでは、船を使って接岸するか、急峻で勾配のきつい崖山を徒歩で越えるか、あるいは潮が引いた時に海岸の岩場を伝って歩くのみだったと云う。現在では、九艘泊へは海沿いの道路の他に、山林を拓いて七引地区からの細い道路も延びている。


中、むつ市街のスーパーで夕食を買い込み、脇野沢へ急ぐ。

この頃にはもう周囲は暗くなり、湾を挟んで対岸の野辺地や蟹田の方には点々と灯りが見えていた。
海岸線をひた走ること1時間、川内を通り過ぎ脇野沢中心部を通り過ぎ、遂に目的地へ辿り着いた。


この地区へ来たのは今回が2度目。
先月のコクワ巡りの時に初めて訪れたのだが、本当に小さな集落である。東通の尻労に行った時もそうだったが、行き止まりのこういった環境の村に来ると、何か一言では言い表せない感動を覚える。
特に驚いたのは、流石は漁師町と言うべきその時間の感覚だ。その時は午前3時に村へ到着したのだが、既に港には大勢の男たちが仕事を始めていたのである。中には村外の遊漁者も居るようだが、家々の明かりが点くよりも先に村の一日は始まっていた。


話が逸れるが、前回来た時に一瞥しただけでよく読まなかったものの、ちょっと気になっていた物がある。
今回はきちんと確認しようと思い、道路の案内標識をよく見てみた。

KIMG2725.JPG
「Kusodomari」。
・・・いやいや、しかしこれもまた明らかな間違いではないらしい。地元民ではないジサマ(まぁ、親戚のおじさんなんだけど)が、半ば罵倒気味のイントネーションで「クドマリ」と発音していたのが正しいのか判らないものの訛りが強いのは実際その通りで、先の調査報告書でも「ウ」を抜かしている発音表記があった。
とは言え、やはり聴き慣れないと下品さが拭えない。


時刻は既に20時20分
日没から1時間が経っており、暗くて風景写真も撮れないので一直線にポイントへ向かう。


イント自体は前回の下見の際に目星を付けていた場所である。ただしこの九艘泊、いくら田舎の山とは言えどこでも簡単に採れそうな環境ではない。
ヤナギ、ミズナラなどの樹液に居るのはどこもアリぐらいのもので、目を見張る虫は居ない。勿論、山奥へ入っていけば採れるだろうが、険しい斜面を夜に歩く危険、多産するクマとの遭遇、そしてこの付近は下北半島国立公園の特別保護地区も一部隣接しているなど、探せる範囲は地図で見る以上に狭い。
さらに、今回は九艘泊ラベルの採集が目的。場所にもよるが集落から200~300m離れると地名が変わってしまう厳しさもある。
そして勿論今回はライトトラップである為、地元の人の迷惑にならない場所で行なう事も前提としてある。

ku-1.png
20時30分過ぎ、いよいよ点灯。

ジワジワと明るくなっていくライトの先には、やや薄っすらとガスがかかっているようにも見える。
温度計は無いが、脇野沢ではアメダス観測もされているしケータイに幸い電波は入っているので問題は無い。時折風は緩く吹くものの、風が吹きやすい海近くだと考えると今日は運が良い方だろう。

エゾハルゼミなどを筆頭に、少しずつ虫が寄ってきた。
こういう慣れない土地に来てライトをやる時、ガの種類や状態を見れば時期の早い遅いが知れて便利なのだが、残念ながらその知識が無く見立てが付かない。とは言え、飛んでくるガはオオミズアオなども含めどれも新しい個体ばかりで、八甲田やその他の地域と比べても季節が遅れているように見えた。


雑虫を一通り眺め終えたところでクワガタの飛来第1号を発見。
ノコギリの♀だった。実は2021年ライトトラップ初めてのクワガタである。感動は無いがひとまずクワガタが来てくれたことに安堵し、この♀はケースへ避難。

続いて、この地の代表格と言えるミヤマが飛来。♀である。
この感じから、ミヤマは今日珍しくないだろうと思いその場へ放置。

それからミヤマ♀の2頭目が来て、今度は♂が上から墜落してきた。
毛も揃っていて綺麗な新物である。無論こちらは、ケースの中へ。


その後も多少間隔が空きつつも1頭また1頭とミヤマは飛んでくるものの、本命が来そうな気配は無い。
何しろ、最初に飛んで来たノコギリでさえその後の追加は無く、アカアシも来ていない。

ku-3.png
甲虫のシルエットが見えて「次こそ来たか!?」と思えば、やっぱりミヤマ。

しかも、飛来数が少ないので不安は増すばかり。
バッテリー1回を使い切った時点で、クワガタは総数でまだ2桁も来ていない。3回分のバッテリーが無くなれば強制終了だ。


灯開始からおよそ1時間半ほどが経過した。
網とLEDライトを手に持ち、ライトの脇でただただ山肌を眺めて立ち尽くしている状態。横には、ひっくり返しておいたミヤマ達が5~6頭並んでいる。

時刻はいよいよ22時を回るかというところ。
飛来して着地する度にパチパチ音を鳴らしていたミヤマとは、違う何かがいつの間にかひっそりとライトの前で静止している事に気付いた。
パッと見た瞬間、♀だが何かちょっと雰囲気が違う・・・





ku-2.png
はッッ・・・!!!!!!

それまで何の手応えも無かったので、「やっと来た」と云う嬉しさの前に「えッ?コ、コクワ!?」と戸惑いにも似た驚きが強かった。

その直後に湧き上がってくる達成感・・・
コクワガタ!! コクワガタだ!!!
♀1頭で大興奮。写真を撮る手もブレまくる。
本土産コクワを採っててこんなに喜ぶ人もそう居ないんじゃないだろうか。
うっかり手から滑って草むらに落とさないかヒヤヒヤしつつ、ここまでの道のりはコイツの為にあったのかと思うとケースにしまうのさえ惜しく思えてくる。


その後、♂も来てくれないかと20分ほど待ったが叶わず、
帰省時間(3時間)も考えてそこで終了。

気が付けば無風になっていて、空は雲が抜けていた。

結果、はっきり計数していないが飛来したのは

・ノコギリ:♀1頭
・ミヤマ:♂2頭 ♀8頭
・コクワ:♀1頭

コクワが1頭でも採れれば目的達成なので満足だが、通常の感覚からすればだいぶ寂しい結果と言えるだろう。
たとえ気象条件がこの上なく良好であったとしても、植生環境その他の要素の問題が有り大して成果があがる場所ではないと云う事を理解願いたい。だからこそこうしてブログに書いたのであるが。

なお、この日の気温データを残しているのでおまけで載せておく。
脇野沢 気温.png
前日まで2日間ほど気温が上がらず18℃台で、一時はまとまった雨も降り風もやや強かった。そこから天候が回復し、日中は日差しが強く昼には24℃台に上がり風も止んできたと云う流れ。採集時の気温は20℃程度だった。


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の後、脇野沢の別の地区で♂1頭を拾い、脇野沢ラベルのコクワを2つ土産にして帰宅した。

KIMG2726.JPG
帰りの道中もコクワ探しで寄り道してしまい、家に着いたのは朝4時だった。





採集中はブレまくってしまったので、持ち帰った九艘泊の貴重なコクワガタを改めて。
ku-kokuwa.png
体長27mmの一般的なサイズ。上翅会合線の帯がやや広い・・・のはただの個体差だと思うが、なかなかチャーミングである。

正直、貴重なラベルなので産卵させようかどうか悩みどころではあるが、1週間も経てばきっとそれどころではなくなるだろうから、やっぱり無難に標本でいいのか。






 ・・・それと、最後にもう一つ悩みどころが。




kusoudomari-miyama.JPG
ノコギリは帰したが、ミヤマは結局1ペア持ち帰ってきてしまった。
やはり九艘泊ラベルは個人的には次回がもう無いと言ってもいいくらい貴重な物なのだが、この後〆てコクワの件が落ち着くまで放置される事になるだろう。


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