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2024年04月 | 2024年05月 |- ブログトップ

文献さがし &青森県図書館巡りガイド [青森の昆虫事情]

地元地域の昆虫について調べる手段の一つに、「文献を探す」というものがあります。

“カブト・クワガタ” だけで考えると、地元地域のものを調べるとなれば【調べる=採る=自分でフィールドで探す】と云う図式が一般的な解釈で、文献調査といったものは意外に思い至らない人も多いと思います。
しかし、広義の昆虫一般では採集・調査・研究されたものは文献などの形で記録として遺され、新たにそれを行なう(行なった)際には過去の記録と照らし合わせて参考にしたり比較したりするものです。

何か “変わった場所” で “珍しい虫” を採ったりすれば、短報などを書く事もありますよね。これは、決して “その道の選ばれた有識者” ばかりが書いているワケではなく、投稿する媒体を選んだり “虫の会” のような生物関連団体に所属すれば誰でも書く事が出来ます。
勿論、こうした場合でもただ『こんな珍しい虫を採りました~』『〇〇県でこの虫初めて採れました~』とデータだけ書いてOKな場合はほとんど無く、必要な文献を十分なだけ参考・引用して根拠を明らかにしなければいけません。


ただ、そこにあたってイチバンの悩みどころが、
どんな文献が存在するのか
どこにその文献があるのか
と云う事でしょう(イチバンと言っておきながら2つになってしまった・・・)
文献の存在を知らなければ、そもそも「過去の記録が云々」と云う発想にすら至らない場合もありますし、論文や短報などの報文は単行本では(まず)ないため簡単なキーワードをネット検索にかけたところでまずヒットしません。CiNiiやJ-STAGEなど、論文記事・学術誌を検索できるWEBサイトも有用そうに思えますが、ローカルな古い文献はカバーされていないのが致命的です。

特に、若い人や虫に興味を持ちはじめたばかりの人は、文献を調べるのに足掛かりがほとんど無い状態だと思います。

そこで今回は、
主に青森県の初心虫屋向けに「文献を調べる(報文を書く)手掛かり」を簡単にまとめてみます。
(相変わらず前文が長かった・・・)


どんな文献が存在するのか
昆虫の記録が載った文献として主なものとしては、
A.自治体や国による、特定の地域を対象とした環境調査報告書
B.環境調査会社等による環境アセスメントの報告書
C.大学や博物館が刊行する紀要
D.専門の出版社や機関が刊行する学術誌
E.学会が刊行する学会誌
F.研究会や同好会などが刊行する会誌
G.一般の出版社が刊行する商業誌
H.学校の生物部で発行する部誌
I.全国紙、地方紙等の新聞
があります。

A、Bについては単行書のものもあれば年次やエリア毎に続けて発行されたものもあり、自然関連の複数の分野に亘ってまとめられる事が多いです。
C、Dについては定期的に刊行されるものですが、基本的に生物学に止まらず分野全体を包括して掲載しているので、毎号必ず昆虫関連の内容が登載されているワケではありません。その為、調べる際に見落としがちになるのですが、発行元のサイトを辿れば大体は目次などが掲載されている場合が多いです。
E~Gについては、定期的・不定期的に続けて刊行されているものが多いです。この辺りのものは分野がより細かく絞られている為、調べる対象の虫によっては文献を絞り込みやすい利点もあります。しかし反面、文献の発行元が各地域毎に存在する場合も多く、文献のタイトル(発行元)の把握に労力を要する大変さがあります。また、現在では発行元が活動休止・解散したケースも多いです。
Hについては、定期的・不定期的に発行され、発行されるか否かについてはその当該の部の指導者の意向によるところが大きく、「生物部が在る=部誌を発行している」とは限りません。
Iについては、社会一般の話題を扱う中で、特に話題性を持つ場合に記事として取り上げられる事があります。日刊紙として考えるとその頻度は稀ですが、全国紙と比べると地方紙の場合は少しだけ頻度は高くなります。青森県の地方紙として刊行されているものとしては
・東奥日報
・デーリー東北
・陸奥新報
・津軽新報
の4紙があります。

なお、「昆虫の資料」として図鑑が思い浮かぶ人も多いと思います。
しかし図鑑の場合は、参考書としては(場合によって)扱いがちょっと難しいところがあります。
採集に活用する場合、おおまかな範囲しか載っていない場合が多く、記述内容を鵜呑みにすると全く見当違いな場所で見つけ出せないまま時間を浪費する可能性もあります。
報文として活用する場合、形態・生態の特徴や概要を示す分には充分活用できると思いますが、「記録」を引用(参考)するには不適格と言えるのです。図鑑自体は、それまでの論文をまとめて集成・要約したものであって、(書こうとする内容によりますが)原典とは言えません。きちんとした図鑑なら、記録の引用元を最後にまとめていて根拠が明らかになっていると思います。図鑑の中から「分布記録」や「生態観察記録」などピンポイントの要素を引用しようとすると、結果的に孫引きになってしまうのでなるべく原典に頼るべきでしょう。


では、
それら文献の詳細についてですが・・・流石に数が多すぎるので具体的に書き並べる事はしません。しかし、個人的に大変参考になった資料がありますので紹介しておきます。

青森自然誌研究 No.16(2011年)
この中の記事の一つに、青森県内の各団体・機関が発行した自然関連の資料・文献名のリストが掲載されています。リスト自体は完全ではないですが発刊号数も載っており、少なくともアマチュアの若手虫屋が自力で把握するのは不可能だと悟るボリュームである事は確かです。

月刊むし No.400(2004年)
『特集・日本の昆虫雑誌』と題して、戦前から始まっていた昆虫専門誌の歴史、これまでに存在する昆虫専門誌および全国各地の昆虫関連団体・発行物のリストが掲載されています。こちらは、特に全国誌や他地域で刊行された文献を探す際の手掛かりとして役に立ちます。ちなみに我々(?)クワガタ屋にもウレシイ?、平成期に隆盛を極めた「カブクワ雑誌」各タイトル(定期発刊分のみ)も網羅されているので令和世代ビギナーも必見の一冊です。

「文献の存在を知る」と云う過程において、上記2冊は是非とも手元に置いておくべきでしょう。ただ、入手するなら双方とも急ぐべきかもしれません。
前者は発行部数がわずか250部で、会員発送分・寄贈分・その後の一般販売済み分を差し引くと、あといくら残っているのか・・・?
後者は発売当時 即売り切れたらしいです。現在は古本として手に入るのみですが、取扱店にいくら残っているのかこちらも想像がつきません。ちなみに、自分は間違えて2冊所蔵していました 笑



どこにその文献があるのか
さて、前段で文献各種の存在を知ったところで、それを “読む” となるとまた別の壁が立ちはだかります。
自分も以前コクワガタの報文を作成した際には、文献の蒐集で途方も無い労力を費やしました。その時の経験から、文献収集の手段として初歩的なものを3パターン説明していきます。


1.自分で買う
新書または古本で出回っているものを発行元や専門店から買うワケですが、言わずもがなこうした文献は日本国内(世界中)に星の数ほど存在していて、それらをいちいち買っていてはキリがありません。
後で述べる2つの手段で間に合わせられるもの以外・・・つまり、
(現状で)買わなければ読む事ができない文献
今後も繰り返し必要になりそうな(引用機会が多そうな)文献
購入するのはこうしたものだけに止めた方が賢明です。オンラインジャーナルの有料記事とかも、この範疇に含まれますね。

実際に文献を買う場合、古書検索サイトや
・昆虫文献 六本脚
・南陽堂書店
・やままゆ書房
と云った昆虫関連の新書・古書を扱うお店のサイトを覘くのが基本です。


2.文献に明るい人・専門施設を頼る
文献を多数持っている仲間・知人に頼ると云う方法は、今回記す調査手段としてはある意味一番 “おてがる” とも言えます。
また、虫屋の中には、生き虫や標本を熱心に集める人がいるように「文献資料を熱心に集める」いわゆる【文献屋】と呼ばれる類の方々もいます。こうした方々は、それまでに要職に就いていたり趣味としての蒐集を窮めていたりと、いずれにしろ長い期間と豊富な経験を経て膨大な資料数を保有しています。
ただ、こうした文献屋の力を借りるのも容易ではありません。
第一に、文献をたくさん私有・所蔵している方はかなり少ないです。文献の所蔵量は人によって様々ですが、何でもござれと胸を張るレベルの人は国内でも稀有で、その道の有名人かつご多忙である場合がほとんどです。ご助力頂けるかは運と縁次第としか言えません。一応、専門機関や関連団体に籍を置く事でその門戸が開かれる場合もあります。
第二に、文献を見せてもらったり借りたりするにも礼儀を重んじる事を忘れてはいけません。その相手と旧知の友人や親族であるならまだしも、金銭のやり取りが発生しない限り「労をとる」のは一方的に文献の持ち主側です。
紙や本をぞんざいに扱わない事
お願いする際に失礼が無い事
相手側に不安(連絡や返却の遅延など)を生じさせない事
上記は社会人としての基本的な礼儀です。さらに加えて、個人的には次↓↓の部分も気を付けています。
その前に、自分の力で最大限調べておく
「こうだと考えて調べてみて、〇〇から◆◆まで当たってみたんだけど、これ以上はどうやっても見つからない(分からない)と云う段階まで自力でやってはじめて、他人に頼るのが道理だと思うんですよね。文献を色々持ってる人だって他人に無償奉仕する為に集めてるワケじゃないですから、「##を調べようと思うけど、何か関係ありそうな文献とりあえず全部見せて?」と丸投げされたら堪ったものではありませんし、それが義理も無い他人なら尚の事です。文献を持っている人に頼るには、常識的な礼儀に加えて「その文献を探している熱量を伝える事」もまた大事だと思うのです。

また、専門的な文献の蔵書量で考えると「個人」以外にも「専門の研究機関・施設」もあります。こちらは、思い付くワードを打ち込めばネット検索で所在を知る事が出来る分、個人を探し出すより早く辿りつく事は出来ます。
ただ、こちらの方法で文献調査をするにもハードルが無いワケではなく、寧ろ難しいケースも少なくありません。
文献の利用申請はおろか施設の利用申請についても案内が不明瞭な場合も多く、機関・団体・施設に所属・関係している人でなければ利用できないような所も(暗に)あります。案内が不明瞭なおかげで、問い合わせ方をちょっと間違えると返信が無いまま放置されたり、担当者に繋いでもらえず結果断られたりする事もあります。
虫屋として完全な一匹狼状態だとこの点で非常に難儀してしまうのですが、ところがどっこい関連団体に入会・所属してしまうと途端に「要りようならばご自由に活用ください♪♪」となったりするんですね。他人と身内で扱いがガラッと変わる・・・社会の常ですね、仕方ない事です。


3.図書館で閲覧する
今回の記事でメインで書こうと思っていたのがここの項目です(記事にしようと体裁を考えてたら、他の部分がやたらと長くなってしまいました)

図書館に行く。これは調べ事をする際の初歩の初歩ですね。文献を読むのにお金もかかりませんし特別な許可も必要ありません。
ただし、そうは言ってもやはり図書館は施設ごとに蔵書数の差は激しく、町村の「図書室」みたいな小規模な所だと文学作品程度しか置いていない場合も多いです。昆虫関連の地元資料を探す場合、単に「自然科学」関連の書棚を見てもあまり意味はありません。重視すべきは「郷土資料」関連の蔵書で、これが多い図書館ほど有用な文献資料に出会える可能性は高いです。

・・・では、そんな図書館は青森県内だと一体どこなのか?
報文作成のために県内ほぼ全ての図書館を訪問した結果、以下の4施設が有用文献の蔵書が特に多いと云う事で紹介していきます。「図書館の蔵書として存在するもの」として限定すれば、ここだけで全ての文献を網羅できると言って差し支えありません。

青森県立図書館
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【所在地】青森市荒川藤戸119-7
【開館時間】午前9時から午後7時まで(一般閲覧室)
【休館日(不定休・年末年始以外)】毎月第4木曜日
◆ 県立の施設なだけあって、県内随一の規模と蔵書数があります。青森市内とはいえ、郊外に立地しているので車で訪れるのに大変楽です。
▲ 利用者数に比してやや座席数が少ないので、高校生の利用者が増えるタイミングでは座れない事もあります。
★ 自然関連の郷土資料は他と比べて最も多く、新旧の昆虫関連団体出版物も多いです。ただ、『Celastrina』が中期の分で抜けが目立つのと、『青森の蝶』も古いバックナンバーはありません。高校などの生物部誌も県内としては蔵書が比較的多い方ですが、寄贈ありきなので抜けがかなり多いです。全国誌で言えば、『昆虫と自然』があるのは意外です。問題は、こうした文献のほとんどは閉架扱いで保管されている事で、カウンターにレシートを出して持ってきてもらう工程が常となります。検索作業時のワードセンスが問われます 笑
採集ラベル確認用として住宅地図を使う場合、全市町村揃ってはいますがカウンターに申告が必要な点は少し煩わしいです。

八戸市立図書館
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【所在地】八戸市糠塚下道2-1(本館)
【開館時間】月~金曜:午前9時から午後7時まで それ以外:午後5時まで
【休館日(不定休・年末年始以外)】祝日の翌日、毎月末(土日にかかる場合、月か金にずれる)
◆ 個人的な感覚ですが、青森市からちょっと遠い場所なので仕事などで八戸を訪れた際についでで立ち寄る事が多いのですが、「せっかく来たのに臨時休館していた」といった不定休が多い印象です。
★ 津軽方面の図書施設ではまずお目にかかれない三八上北方面の郷土文献が多く、一部の生物部誌や『青森県生物学会八戸支部関連紙』など、ここでしか見られない資料も多数あります。ただ、『レディーバード』が4号のみと一部の別刷しかないのは残念なところです。他には、新聞の切り抜きで昆虫他生物の記事が綴ってあるのは興味深いです(ダイコクコガネとか、津軽民には新鮮に感じました)
蔵書数の関係もあると思いますが、郷土資料もわりとしっかり開架されているので文献は探しやすいと感じます。

弘前市立弘前図書館
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【所在地】弘前市大字下白銀町2-1
【開館時間】月~金曜:午前9時30分から午後7時まで それ以外:午後5時まで
【休館日(不定休・年末年始以外)】毎月第3木曜日(祝日の場合はその翌日)
◆ 官庁関連および弘前公園前に立地しているので、車で来るとタイミングによってはちょっと渋滞する事があります。駐車場は、図書館の真下に地下駐車場がありますが、最初の1時間を超えると有料になります。
▲ 郷土資料は2Fの調査室にまとめてあり、利用にあたってはカバン類を部屋前のロッカーに預ける必要があります(持てるのはお金や筆記具くらいでしょうか)、10円玉を用意しておきましょう。
★ 農業関連や叢書の類は非常に多いのですが、自然関連の郷土資料は意外に貧相です。その点で言えば大学側の図書施設の方に補われているのだと思います。ただし、見逃せないのは『テレァコ』の合本が所蔵されている事で、閉架資料と云う事でこの存在に気付けない方も多いのではないでしょうか。津軽方面の古い記録を遡る際は一読する事をおすすめします。

むつ市立図書館
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【所在地】むつ市中央二丁目3-10(本館)
【開館時間】火~金曜:午前9時から午後7時まで それ以外:午後5時まで
【休館日(不定休・年末年始以外)】毎月第2・第4木曜日
◆ 遠すぎてなかなか行けない! 個人的には仕事のついでか下北採集のついでじゃないとそうそう立ち寄れないのですが、ここに立ち寄ると他の都合(帰宅時刻や採集移動時間)が犠牲になりがちなので、今までもかなり焦って資料を探す事が多かったです。「市内の観光ついでに立ち寄る」くらいの余裕をもって訪れるべき場所ですね。
▲ 他の図書館だと郷土資料室は他のフロアと隔離されていて閉塞感を感じる事が多いのですが、ここは平屋建ての1フロアになっているためか、郷土資料コーナーも風通しが良い印象があります。
★ これまでは急いで資料を探した事しかないので、閉架書庫に有用な文献が隠れているのか検索した事もないのですが(←しろよ)、下北地方の調査資料・自然関連団体の文献が豊富に開架されています。特に、『むつ市文化財調査報告』シリーズが県立図書館と違い閉架になっていないのはとても助かります。
また、採集を行なうのにとっっっても有用な地図類を見る事ができるのはココだけのヒミツね♪♪


おまけに、
さしあたって「ここじゃないとダメなんだ!」と云うワケではないものの、時と場合によっては便利な図書館をあと2つ紹介しておきます。

弘前大学附属図書館
読んで字の通り大学施設内に在る図書館です。
特筆すべきは『Celastrina』の蔵書です。津軽昆虫同好会、弘大OBが発足しただけあって県内図書館では号数が一番揃っています。
ただ、難点としてはやはり大学施設と云う事で「学外」の人には利用しづらい事です。勿論、「一般の方も利用可」ではあるのですが、言うまでもなく「学生優先」。試験期間など学生の利用が混みあう時期は学外利用が制限されたりする(らしい)ので、不利益を被らないためにもあえてここを利用する必要は自分には無いかなァ・・・

青森市民図書館
県立図書館と双璧を成す?青森市二大図書館の片割れとも言える図書館です。
郊外にある県立図書館と違い、こちらは青森市の中心市街地に所在しているため施設の利便性が異なります。複合施設ビル【アウガ】の中に在り、夜8時まで開いている点が特異です。
文献に関して、県立図書館と比較して優位性はあまり無いと思われるのですが、住宅地図を自由に手に取って出せる利点があります(カウンターでのやり取りが要らない!)


最後のおまけに、図書館の検索機を使う際に役立ちそうな
「ありがちな書籍タイトルのワード」を列記しておきます。
・の自然(のしぜん)
・環境調査報告書(かんきょうちょうさほうこくしょ)
・分布調査報告書(ぶんぷちょうさほうこくしょ)
・昆虫類(こんちゅうるい)
・の昆虫(のこんちゅう)
・八甲田(はっこうだ・はっこうださん)
・白神山地(しらかみさんち)
・津軽半島(つがるはんとう)
・下北半島(しもきたはんとう)


以上、
コンパクトにまとめるつもりが結局冗長になってしまいましたが、これで終わりとしておきます。主観も大いに含んだ内容ですが、調査の参考として役に立ったなら是幸いというところです。

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はじめてのコルリクワガタ採集 [日昆 採集記 【2024年】]

何度も何度も言っていますが、青森県という土地はクワガタの多様性に富んでなくて、クワガタ分布数は47都道府県で下から3番目。青森県内限定で採集していると一生見る事ができないものは、そりゃもう色々いるワケです。

一念発起、遂に重い腰を上げて “脱・青森” に踏み切って念願のヒラタクワガタを採集したのは5ヶ月前の事でした。

季節変わってこの時期、もう一つの憧れのクワガタがシーズンを迎えています。

それは、コルリクワガタ
青空の下、残雪の春山でブナの新芽を飛び交う様子をいつか自分の目で見てみたいと長年想い続けてきました。青森にはルリクワガタがいますが、こちらは新芽での観察は夢のまた夢で、野外活動個体は材表面を歩行しているかビーティングするかでごく稀に見つかるレベル。
本州以南に広く分布していると云うのに北限が岩手県と秋田県と云う歯痒さが、一段と憧憬を増幅させられる一因でもあります。

そんな中、5月半ばの連休が好天に恵まれ、前回の和歌山採集で多少なりとも遠征慣れした事もあってコルリにも挑戦してみようと、再び青森を脱する決意を固めました。





 5月11日

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深夜1時、自宅を出発しました。

今回の採集は、隣県と云う事もあって日帰りを想定。陽が昇ってすぐ山中に踏み込めるように、早朝の内に現地に着こうと云う算段です。前日の仕事を定時で無事引き揚げ、帰宅後は22時まで寝溜めしておき体力を回復(でも採集道具の準備積込みは全て出発直前!)。アラームが利かずにうっかり朝まで寝過ごすようなポカを犯さなくてホントによかったと思っています。
遠征前の腹ごしらえとして、すきやに立ち寄って牛丼を腹におさめます(注:いくら青森でもちゃんと牛丼屋は24時間営業していますよ)

青森県内は夜中の車通りが極めて少ないので、ひとまず岩手入りするまでは下道を使い高速料金を節約します。
南部方面経由で二戸市から岩手県入りした後、滝沢インターチェンジから東北道に合流し、一気に南下。

盛岡市に入った辺りで連絡が入りました。

某氏 「起きてますか?」

フフフ、ちゃーんと起きて盛岡まで来てますとも!
東の空はもう白み始めていました。





周囲も明るくなってきました。高速道路を降りて目的地へ迫ります。

間もなく辿り着いたその場所は―――


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岩手県 西和賀町
県西部、秋田県と接する奥羽山脈脊梁部に位置していて、岩手県屈指の豪雪地帯の一つです。


車を停めて、長かったドライブの疲れを抜きつつ道具の準備をはじめます。
スマホにこれから向かう場所の地図を読み込ませていると、1台の車が横に停まりました。


No.7 「お疲れぃ~っす」


実は今回の採集、自分一人の “行き当たりばったり” 採集ではなく、コルリの新芽採集の経験があるNo.7との2人組採集。先ほどの連絡も、「会長が夜寝入って採集予定が白紙になるのでは?」と心配してのものだったのです。

今いるこの西和賀町は、コルリクワガタの産地として注目すべきニュースが近年報じられたばかり。No.7は前年に同エリアで本種を採集した事で、生息環境や発生時期について見識を備えています。その知見を基に、今回の採集に向けて何度か打ち合わせをしていました。
その中で、「既知の産地で採ったって無意味!」と云う両者の意見の下、採集記録の無い全く別の山塊で本種を探そうと云う事になったのです。
そうです、新規開拓をしようって言うんです!
なお、ポイントの選定・行程計画は全て自分である!
(これは・・・ “行き当たりばったり” ではないのか!!?)


装備を整え、車を置いて徒歩で山に入ります。
新芽採集を想定しているので、採集道具は基本的に網(自分:短尺、7:長尺)としますが、もし新芽採集の時期がズレていた場合に備えて斧・鉈もリュックにしまっています。山奥に分け入る手前、双方とも熊スプレーを携帯。惜しむらくは、飲料水は持ったものの、行動食レーションを持っていない事。高速道路を降りて以降唯一のコンビニをスルーして目的地に到着してしまったせいで、食料を買いそびれていたのです・・・
服装は双方ともつなぎ・トレッキングシューズ着用ですが、自分は加えて前から試してみたかった実験として「ゼブラ柄のパーカー」を羽織ってみました。以前どこかで、『シマウマのあの模様はハエなどの邪魔な虫を寄せ付けない効果が有る』と云う説を読んだ事があり、双翅目のしつこいこの時期にこれを着る事で変化があるか見てみたかったのです。余談だけどこのパーカー、レディースだぞ。
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そしておまけに、未だ勿体ぶって部屋に飾りっぱなしだったこの「松阪牛霜降りタオル」を遂に解禁! 結果的にライオンにメチャメチャ狙われそうなビジュアルになってしまいました。ここがアフリカのサバンナでない事がせめてもの救いです。
(タオルについては【はじめてのヒラタクワガタ採集 ‐前編‐】を参照)

山に入った我々の目の前に、2つの分かれ道がいきなり現れました。

① 正面の、鬱蒼とした薮に埋もれたルート(登山道の表記通り)
② 側方の、鉄柵が付いた法面上を伝うルート(地図表記無し)

No.7は「の方も先ちょっと見てみません?」と言うものの、「いや、そっちはどうせ法面施工管理用の通路になってるだけですぐ行き止まるだろうから時間の無駄、に入りましょう」と身の丈ほどの草が生い茂るへ意気揚々と飛び込みました。
時刻は7時40分を回ったところです。

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一面の緑、その下に隠れたゴロ石、枝分かれして広がる灌木。登山道に入ったばかりにもかかわらずこの荒れようは、前途多難である事を確約していると言っていいほどでした。しかも、コルリの生息が期待される標高に上がるためには尾根筋にまず合流しなければならないのですが、その尾根筋に辿り着くまでも時間が掛かっています。ずっと水平に進んでいます。
足元は非常に躓きやすく、薮を掻き分けて進むにも難儀します。地図アプリを開いて位置を逐一確認しますが、かなり時間が掛かっています。この時点でもう先行きが不安です。

やっと尾根筋に辿り着いたと思えば、今度は急斜面
地図を読んでいた時から覚悟していたとはいえ、それでも戦意を殺ぐのに十分な光景でした。
1715528173596.png
何しろ、地図には書いてあるはずの登山道が全くと言っていいほど残っていないのです。
傾斜40°はあろうという急登で、笹や灌木を掴まないと登れない区間もあります。地図の高等線もギュウギュウで密です。縦列で登っていきますが、枝が弾けたり石が落ちる危険があるので双方十分に距離をとって進みます。


斜面を登り始めてまだ数分しか経っていないところで、やらかしました。
先頭を進んでいたのですが、若木の枝と間違えて枯れ枝を掴んでしまい、手繰った拍子に折れて後ろに体が投げ出され、約2m背後の立木に激突しました。
左半身を強打し、20秒くらい呼吸が出来なくなりました。痛打したのは肋骨(11番前後?)・左腸骨・左膝で、特に腸骨をモロに打ってしまいましたが、真っ先に心配したのは腰のポケットの中身。スマホは幸いにも右ポケットに入れていたのでちょっと安心しました。そして何よりそのすぐ下にはNo.7がいたので、巻き込まなかった事は本当にラッキーでした(かえって立木にぶつかってよかった)

身体の痛みで足取りも重いので、ここからは交互に先頭を入れ替わり登っていきます。

人の通った痕跡なんてほとんど残ってない上に、傾斜はますますキツくなってきます。休憩できる足場も減り、ひと息で10m以上を登らないといけない区間も増えてきました。このまま一気に標高を100mほど上がらなければ傾斜が緩くなりません。進むも地獄、戻るも地獄です。

そんな地獄の急斜面のど真ん中で、今度は別のハプニングが発生しました。


No.7 「ッア゛!! やっちまッたッ!!!」

何事かと振り返ると、No.7が顔を押さえてうつむいていました。薮漕ぎしている間に、リュック脇に差した熊スプレーのストッパーが外れてしまい誤噴射飛沫が左目に入ってしまったのです。
携帯していたお茶を使って洗い流しますが、涙管を通ったスプレー成分によって鼻まで痛みだしたとのこと。
時間をかけゆっくりとお茶で目を洗う事を繰り返し、痛みが和らぐのを待って再出発します。彼の左目は、真っ赤に充血していました。


玉のような汗を垂らしながら急登を登り続けます。
地図を見るとほんのわずかな距離に見えるのですが、標高差が激しくて「かなり歩いた」と思っても(ほとんど進んでない)スマホを見る度に絶望的な気分になります。

1715528179487.png
相変わらず道は無いに等しいのですが、地面から見え隠れする「何かのケーブル」を道標にひたすら上を目指します。

やっとの事で急登区間を登り切り、標高は550mに至りました。
まだまだコルリの生息標高でない事は分かっていますが、この時点でちょっとキナ臭くなってきました。
何しろ、この時点で時刻はもはや10時を回っています。実は、今回目的としているエリアはこのまま単純に標高を上げていくのではなく、小さなピークを2~3ヶ所経て標高800m以上の場所に向かう行程が必要なのです。標高800mどころか1つめのピークにすらまだ遠く及びません。地図上で距離を測ると目標の標高800mラインまで3分の1未満の距離しか進んでいないので、実質到達不可能と悟りました。

こうなると考えることは一つ、「標高低くてもいたりしないかな~・・・」“一縷の望み” と云うよりはほぼ完全に “妄想” です。
たけのこ(ネマガリタケ)はもう伸びきっているし、周囲の木々は完全に葉っぱが開いています。図鑑や他のブログで見る新芽採集の画のような残雪は、一切ありません。林床にはアリやクモが闊歩し、そこかしこの葉上にはタマムシ類、コメツキ類、アカハネムシ類で賑わっています。景色は完全に夏山です。

傾斜が緩くなったのはいいのですが、いよいよ進むのが大変になってきました。
低標高の尾根筋だと日当たりが良いために灌木と薮が絡み合うような密度で、もはや人が立ち入る隙がありません。薮に身体を預けながら潜り込んでいくような体勢です。上空ではクマバチが乱舞し、足元にはクマの糞が所々に落ちています。

倒木などの枯れ木も見ていますが、産卵痕は普通のルリさえ付いていません。

1715528187896.png
標高600mに達したところで時刻は11時半過ぎ、南中時刻に達してしまいました。

依然として夏山の様相は変わらず、薮漕ぎ登山の状態もまるで改善の兆しがありません。
失意の我々をあざ笑うかのように、無数のハエとブユがうるさく付きまといます(五月の蠅は・・・)。数として3桁は群がっていて、ハエはいいにしろブユは辛い! 髪の中に潜り込んできて噛んでくるので落ち着きません。ちょっと立ち止まってしまうと瞬く間に取り囲まれてしまうので水分補給もゆっくりしていられません。ゼブラ柄パーカー全く役に立たねェ! 重ねて言うけど、やっぱりここアフリカのサバンナじゃないもんね・・・






木立の合間から遠くの山が見えるようになったところで、決断の時を迎えました。

自分 「・・・帰りますか~・・・」

No.7 「・・・帰りましょう・・・」

まだしばらく先にある第1ピーク、その山頂に見えたのは【しっかりと芽吹き繁茂する木々】の様子。これが “トドメ” でした・・・


しかし、ここから踵を返そうにも、それすら躊躇われます。
道が無い登山道を進んできたので(日本語おかしい)、さっきまで通った場所すら判りません。行く手を遮る木の枝の向きもあって “一方通行” みたいな場所も多かった手前、同じ場所を通れません。

通れそうな場所を見つけて進みますが、地図アプリで現在地を確認すると登山道から少しズレてきている事に気付きました。
慌てて軌道修正しようとするも、思うように戻れずむしろますます離れていきます。

No.7 「水平移動より、むしろ登るくらいの方がいいかも」

そう言って先頭を交代したNo.7が見えなくなりかけたところで、

No.7 「会長ー? さっきの道、発見しましたよー」

登りの時、急登を過ぎたあと一時的に登山道 “のような場所” に入った(ただしその後すぐ自然回帰で消滅)のですが、どうやらそこに運よく合流できたようでした。
これを逃す手はないだろうと、この道を辿って行けるところまで下っていく事にしました。

ところが、しばらく歩き続けるうちにじわじわと違和感を覚えるようになってきました。
道が “終わらない” のです。
それどころか、気のせいか段々と “道がしっかりしてきた” ような感じすらあります。気が付いて現在地を確かめると、なんと地図の登山道から大きく逸れていました。当然、今自分たちが歩いているルートは地図には載っていません。国土地理院の地図なのに・・・
不安は拭えませんが下っているのは確実なので、命運を天に任せ道沿いに歩くしかありません。

KIMG7636.JPG
道があるとは言え、尾根から外れただけあってさっきより急斜面です。
まだ慣れない新品のトレッキングシューズを履いてきたせいで、靴擦れが起きて爪先に激痛が走るようになってきました。目の充血が治まってきたNo.7を先に行かせ、自分は休み休みゆっくり下るようになりました。


そうして休憩を繰り返す中、とある樹に付いたつるの葉上に石粒のような虫が付いているのが目に留まりました。最初は爪先の痛みと疲労感でボーっと見ていただけでしたが、4~5秒後には驚きに変わりました。

自分 ・・・・・・!? マダラ!!!!

大声に驚いたNo.7も慌てて戻ってきました。

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野外活動中のマダラクワガタを発見したのは初めてなので、興奮まじりで撮影に興じます。単なる偶然ですが、「よくこんな小さいのに気付けたなァ」と不思議でしょうがない心境です。
ただの山登りと化していた今日の採集で、自身唯一の採集品になりました。

No.7も感化されたのか、
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その後目に留まったリンゴカミキリを土産にしていました。
マダラクワガタといい当地の様子といい、低標高地とは言え季節の進む早さを痛感しかえって諦めが付きました。


さて、その後ですが
どこへ行くのか分からなかったこの登山道が徐々にスタート地点に近付いている事が判りました。

足先の痛みを堪えながら歩き続けて間もなく、
先を進んでいたNo.7が立ち止まってこちらを待っているのが見えます。まさか・・・!

No.7 「見てくださいよ ⇒」

指差す先には人工物が色々と見えます。
ここで全てを理解し、2人揃ってその先へ向かいました。


そして、あっという間に到着した場所は・・・
スタート地点だったのです。

そう、山登り開始地点で現れた2つの分かれ道
どうせ法面管理用の通路で行き止まりだろうと思い無視したの方、まさにそこへ戻ってきたのです!
しかも、時刻はまだ12時50分。たった1時間で戻って来られたのですから、2人揃って脱力。苦笑いですよ。





あまりに早く戻れてしまったため「別のポイントに行ってみるか?」と云う案も出ましたが、お互い身体にダメージが残っていた事もあり早々に却下。近くの自販機と売店に立ち寄ってドリンクとソフトクリームを口にし、疲れた体を労います。結局何一つとして成し遂げてないんですがね・・・。

「30歳過ぎると体の治りが遅くなって――」などとオジサン的会話やら、西和賀の土産選びや今年の夏の予定など話してワーワーキャーキャーした後、早めに休養を取ろうと云う事で14時前に解散しました。


〉〉その後・・・


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