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脅威の標本箱 [日昆 日常雑記]

あらゆる生物の中でも、
節足動物・・・とりわけ昆虫は他と比べて、
そのままの形で半永久的に残しやすい。


言い換えれば、
昆虫は標本作りがとても簡単な生物なのだ。




「生きているものは、皆美しい」

使い古された言葉ではありますが、こと昆虫に関しては、
「死してなお、美しい」
と付け加えることが出来ます。


はい。今日は、標本のお話です。






つい先日、このような本が発刊されました↓↓



【Amazon.co.jp 限定】驚異の標本箱-昆虫- 超美麗昆虫ポストカード5枚付

【Amazon.co.jp 限定】驚異の標本箱-昆虫- 超美麗昆虫ポストカード5枚付

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 著者: 丸山宗利・吉田攻一郎・法師人響
  • 発売日: 2020/10/16
  • メディア: 大型本


発売から1週間が経ちましたが何やら某SNSでは絶賛の嵐だそうで、5,000円超と安くない価格にしては驚異の売れ行きとなっているようです(amazon調べ)
今までによくあった、「きれいな昆虫を選りすぐった写真集」とはちょっと違い、「よくよく観察すれば虫そのものが美しいという事を、色々な虫を使い見せ方によって紹介していく本」と言った方がいいかもしれません。

「紙の本が売れない」「きれいな写真はSNSで」と云う今の時代にこうした本が出てくるのは、とても心躍るものがあります。





さて、最初にも書きましたが今日の本題は「本」ではなく「標本」。
驚異の標本箱もすごい内容ではありますが、今回の記事は残念ながらただの宣伝ではありません。願わくば、この後お見せする惨憺たる光景の「口直し」に・・・と思い紹介したまでであります。ちなみにアフィリエイトもしてませんし。
(また、著者の一人である法師人響さん=旧 あしかさんには以前よくブログへコメント頂いてましたので、そのお返しになれば・・・なってないか)





 ただしこの先は、閲覧注意。





脅威の標本箱.png

さっき紹介した本の内容から180°違う世界になります。
勿論こっちは画像をクリックしてもAmazonの商品ページには飛びません。


前書きとしてことわっておきますと、
長年昆虫を扱っている者ならば本来このような記事は書くべきではなく、ただただ恥を曝して自分の首を絞めるだけなのですが、このブログに関してはそこんトコもう手遅れなので諦めて書くことにした次第です。





さて、
カツオブシムシと云う虫をご存知でしょうか?

どれも成虫体長10mm未満の小型のグループの甲虫で、幼虫は主に動物質もしくは植物質の乾物を食べ、成虫になっても同じ物を食べる種が多いです。
その生態から、乾燥食品・衣料品などの害虫として危険視される種も多く、輸入品に混じって国内に入り込む例もあります。その反対に、哺乳類などの骨格標本を作る際に利用される例もあります。


今年の秋。
夏の間に採り溜めて、展足・乾燥させていた虫の後処理を少しずつ続けていたのですが、最近やけにヒメマルカツオブシムシの幼虫がうろついているのが目立っていました。

ヒメマルカツオブシムシ Anthrenus verbasci
成虫2~3mm・成熟幼虫は最大約4mmの大きさ(「成熟幼虫」と言うのは、本種の場合必ずしも一定の齢数で蛹化するワケではなく、6齢で蛹化する場合もあれば10齢に脱皮してから蛹化する場合もある為)

成虫は4~5月に活動し、♀はまず羽化したその場=幼虫時代の食物にほとんどの卵を産み付けてから離散します。花に集まり花粉を後食した後に別の産卵場所を求め移動し、新しい産卵場所を見つけるとそこへ残った卵を産み切ります。

幼虫は、毛・皮革・絹の動物質の衣類、昆虫を含む動物の乾燥標本・剥製を好んで食べ、時として綿などの植物性の衣類・乾物も食べます。屋内においては食性の幅が広い上、絶食環境にも強く成長中期の個体でも3ヶ月程度、成熟幼虫では6~12ヶ月程度まで耐えることが出来るそうです。その上、移動性も有していて、その場で食べる物が無くなれば離れた場所へ歩いていく事も珍しくありません。体表にはアリくらいの小昆虫を刺し殺すくらいの硬い毛が生えていて、さらに外部から刺激を受けると腹端から特に密度の濃い毛束が突出して展開します。越冬態も幼虫で、約300日もしくはそれ以上の期間(屋内の温度や食物量などに影響されます)を経て春に蛹化するのです。


自分の場合、乾燥中の標本を保管する場所が密閉容器だけではなく、棚に置いてあるだけのモロむき出しの状態の所もある為「危険と言えば危険」な環境ではあったんですよ。

それもあって、以前からごくたまに食害を受けて見栄えが悪くなってしまったり泣く泣く廃棄する標本もあったワケですが、最近はその頻度も高くなってきていたんですね。


で、
いい加減になんとかしないといけないので原因を探してみたところ、
怖ろしい光景を目の当たりにする事となったのです・・・





KIMG1466.JPG
部屋の一角。ヒメマル発見が多発しているのがこの付近。
簡単に説明すると、中央の水色の箱体がスタイロ温室、その上に積んであるのはマット撹拌用のタライ。
左のベニヤ板の箱は、見てお判りの通り展足品の乾燥庫です。危なっかしいですねぇ。手前にビニールシート垂らしてもただのホコリ除けにしかなりませんからねぇ~


この中で、今回の問題は赤〇で囲った場所に在りました。

ここには、温室を設置して以来ある標本箱を壁に沿わせて置いてあり、位置的にタライの裏に隠れるような場所だったので、普段あまり目に付かなかったのですが・・・



KIMG1445.JPG
これが問題の標本箱です。

寄って見なくても判る、この凄惨な虫達の現状。
勿論、地震で倒れたワケでも、箱を持って振り回したワケでもありません。ただ「手の届かない場所にずっと置いといただけ」なんです。


この虫達、自分が外国産に憧れて飼うようになった頃の思い出深いクワガタなのですが、それがヒメマル大発生の温床になっていたなんて・・・
ショックですよ。悲しいですよ。


KIMG1441.JPG
箱の外側には、幼虫の脱皮殻は勿論の事、今まさに生きて動いてる幼虫本体が所々矢印部分に付いています。


発生に気付かなかった事も大きな要因ではあるのですが、
ここまでの虫害をもたらしたそもそもの原因、
それは標本箱そのものにありました。

画像を見て有識者ならばすぐさまお判りかと思いますが、
他ではまず見ないような標本箱です。

それもそのはず、この箱は手作りでこの現品しかない物だからです。
これは、自分が小学生だった頃に祖父が見よう見まねで作ってくれた「初めての標本箱」で、虫を入れるだけではない、「これそのものが思い出」と言うべき大事な物なのです。

KIMG1465.JPG
箱自体はよく出来ていたものの、さすがに専門の知識が無かった分、虫害に関しての対策がされておらず、蓋は溝を切った「はめ込み式」ではなく蝶番により開閉させる「鍵留め式」。

KIMG1444.JPG
ガラス板も、木枠との間を完全に埋めていなかったため幼虫が出入りできてしまいます。

思い出が勝る所為か、中途半端に「目に付くような場所に置いていた」事が災いして今回の被害に遭ってしまったんですね。
中には一応防虫剤も刺していたんですが、そんな物はとっくに効力が無くなって久しい状態。


思い出深い唯一無二の品ではあるのですが、
このような現状に至ってしまってはもうどうしようもありません。

断腸の思いで全て廃棄することにしました。





この記事を書いている今現在となっては、
これらの標本も思い出と写真の中だけのものとなってしまいました。

ただ、これだけでは記事としてはちょっと生温いので、
標本害虫の怖ろしさを啓発する意味も込めて、これらの標本の思い出被害状況を一つずつ振り返ってみようかと思います。

まずは上段から。

KIMG1447.JPG
パラワンヒラタクワガタ
これはたしか、中学2年生頃だったかな? 弘前市のホームセンター内のペットショップで、展示販売されていたんですね。当時は県内ほとんどのペットショップでも多少なりとも外産クワガタは置かれていたんですが、一番安定して多くの虫が陳列されていたのがここだったんですね。7cmほどのペアで4,200円でした。
購入してブリードしましたね、当時のメンバーで幼虫を分け合って(金は取った)、皆で初めて菌床を注文したっけなぁ。そして、初めて見る9cmUPの大きな♂に感動しましたねぇ・・・

今回の被害の中ではわりと見た目にはマシな方かと思います。最初の時点では胴体が付いていたのですが、内部は全て喰われていて、ナナメに傾けたら上半身が分かれました(笑)



KIMG1450.JPG
エラフスホソアカクワガタ
現在のトルンカートゥスホソアカですね。これは、小学5年生の頃、よく行っていた地元のホームセンターのペットショップで、
「外国産クワガタ 希望の種類があればお取り寄せします」
と云う張り紙を見て興奮まじりに注文して買ったクワガタの内の一つでした。7,500円。
ただ、本当は注文したのはエラフスじゃなくてメタリフェルだったんですよ・・・見た瞬間「あれッ!!?」と思いましたが断れる子供でもなかったんですよねぇ。ちょっとしたモヤモヤを抱えながらでしたが、家に持ち帰って銅色の金属色をずっと眺めていました。

虫食い被害は、フ節や触角がポッキーのごとく噛み消されていますが、一番酷いのは腹部。腹板がベリッと剥がれていて、それがヒメマルの脱皮殻に引っかかってぶら下がっています。パラワンの時と同じく、ごみ分別時に開けてみてみたら内部は完全に食い尽くされていました。


KIMG1452.JPG
メタリフェルホソアカクワガタ
ペレン島のフィナエです。隣のエラフス(トルンカートゥス)を買った1~2ヶ月後、「今度はちゃんとメタリフェルが入荷しましたよ!」とペットショップから連絡があって買ったのがこれでした。7,800円とこちらも安くはなかったものの、本命だったので勿論その場でお買い上げ。
この後、大容量ケース(ワイドビュー特大)で産卵セットを組んだものの、知識が乏しく1次発酵マットで組んだ所為もあって得られた幼虫は4頭、それらも間もなくして死亡しました。

さて写真の状態ですが、「これ何の虫?」と云う状態。
長くバランスの悪い頭部は発見した時点でもげていました。脚もよく見るとフ節のみならず脛節までもがヒメマルのお菓子にされていました。


KIMG1454.JPG
ニジイロクワガタ
小学校中学年頃にはこれが一番の憧れで「いつか絶対飼うんだ」と、児童書のカブクワ本ではいつもこれが載っているページを眺めていました。
その念願が叶ったのは小学5年生の頃、地元のペットショップに初めて入荷したのが現物との初めての出会いでした(と思う)。15,800円と云う小学生には厳しい値札の前で数日足踏みしていましたが、親との何らかの取引などを経たりして遂に飼育の夢が叶いました。
毎日の鑑賞は勿論の事、産卵にも挑戦しましたが、「堅い材に産む」だのと不確定な書籍情報に惑わされ、この時のペアは失敗したんですよねぇ・・・それでも、♀は材をガリガリ齧っていたので、軟らかい材さえ入れてれば採れてたんだよなぁ~と後年になって思いだすんですよ。

標本の状態ですが、最初の時点では完品だったものの、フ節と頭部が落ちています。また、腹板もブラブラしています。
また、ヒメマルとは関係ありませんが、体色も変わってきています。当時はノーマル色だったのですが、15年以上も経っている事でUV焼けでしょう、淡くなっています。窓際に置いていたワケでもなく、室内ですらこうなので、やはり色虫はUVカットの標本箱に入れることが大事ですね。


続いては下段です。

KIMG1456.JPG
スマトラヒラタクワガタ
これも、自分が中学2年生前後だった頃。当時はムシキ〇グブームで、ホームセンター以外でも外産のカブクワがよく商品として並んでいました。このスマトラヒラタも、昆虫用品と一緒にイトーヨーカド―の玩具売り場に並んでいたもので、ペア1,200円くらいで買ったものでした。
えっ?そんなとこの虫なのに何でパダンだって判るのって? いいじゃない子供のやったことなんだから(笑)

被害状況ですが、脚以外にはあまり目立って食われていないように見えます。パラワンもそうですが、ヒラタなどのガッシリ系体格のドルクスは骨格が厚いので、喰われてもバラバラになりにくいんでしょうね。
えっ、中身? 勿論完食されてましたよ!

KIMG1463.JPG
そして、その隣に無残にも転がっているのが上段のメタリの頭部。
また、下にはヒメマル幼虫・脱皮殻・糞・食われた身体の残骸の数々
これほどに戦慄する画像を載せるブログも今時なかなか無いと思うぞ・・・


KIMG1457.JPG
ブケットフタマタクワガタ
初めてのフタマタ。声に出すとなかなかのパワーワードです これも小学5年当時、お取り寄せで注文したクワガタでした。
「小5でブケット!? シブいなァ~(笑)」と思われた方、違います。本当はセアカフタマタを注文したんです。このペットショップ、注文した虫をことごとく間違えるんだよなァ!! 買ったけどさ・・・7,500円。
セットを組んで僅かに幼虫が得られ、羽化したWF1も大切に飼育していたところまでよく覚えています。そうそう、羽化したのがちょうど自分の誕生日だったんだよなァ・・・

ヒラタ2種と並んで、この中では大柄で虫食い被害に耐えていそうにも思えるのですが、見てみればやはりドルクスとは違って脆いとこは脆いですね。腹板がゴッソリ落ちていました。


KIMG1462.JPG
パプアキンイロクワガタ
最後はパプキン♂♀。これもたしか初めて見たのが購入時、小学5年のホームセンター注文でした。この時はちゃんとパプキンを注文してパプキンが来たのですが、意外と値段が高く7,800円。よく飛ぶし見ていて飽きませんでした。ブリードに失敗するのもお約束ですねぇ(苦笑)

虫食いは、もう翅の間から向こうが透けて見えてしまってますね。
中身も空洞ではありましたが、なぜかフ節は喰われてないんですよね。これから食べるつもりだったのでしょうか。


これら全ての標本を、分別する為最後に針を抜いたのですが、
抜こうと引っぱった途端に胴がバラバラと崩れていったのは本当に脱力モノでした。
上翅と腹板を残して全て消えていたのです。想像以上の酷さでした。





さて、如何だったでしょうか。
耐性の無い人なら今夜きっと夢に出てくるかもしれません。グッナイ。

これほどじゃないにせよ、
カブクワ界隈では有名なシーラ箱も製品ムラがあるので、物によっては近くで見ると角の部分とか隙間が結構あってかなり危ないんですよね。チャタテムシなら普通に入ってきますしね。
懐事情も厳しいせいで、これまでは高額なドイツ箱ではなく飼育用品と一緒に買えるシーラ箱に逃げがちでしたが、今後の事を考えて現状をもうちょっと見直さないとダメですね。

以上、標本害虫の脅威を紹介しました。








・・・あれ・・・ちょっと待てよ?

・・・・・・思い出せ・・・

・・・・・・・・・そういえば・・・!!



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あッ。





KIMG1484.JPG
もう1個あったんだ・・・



昆虫標本を作るのは簡単である。
しかし、
それを保管し維持していくのは簡単ではない。

思い出をそのまま遺していく為に、
納める箱はしっかりと選びたいものである。

驚異の一箱になるか、悲惨な脅威となるか
その分かれ道になるのだから・・・



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