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750キロを突っ走れ! ~ ペレン島からの珍虫 ~ [ドルサリスノコギリ (ヒロミ亜種)]

前回の記事からもう2ヶ月近く経ってしまいました。
こんばんは、会長です。

11月に入ってからは、
・標本作業
・カレンダー製作
・図書館巡り(文献漁り)
・その他諸々の作業
に追われて休日平日の境が無いような感じになっていて、
ブログの更新にまで手が回りませんでした。
年末も迫る中、ようやく一つだけ=カレンダー製作と云うメンドウな仕事が終了したので、久々にブログをいじる事が出来ました。

当初の予定であれば、
シーズン終了時からずっと書きたかった
・コクワガタ
・ヒメオオクワガタ
の採集記に取りかかりたかったのですが、
急遽「これは書かなければなるまい・・・!」と云うイベントが起こってしまった(?)ので、今回はその顛末を書きまとめることにしました。





そろそろ雪が降り積もり始めるか・・・と云う12月第2週のある日の事。
この時、自分は間接的に虫に関係する「ある大きな買い物」をした直後で懐も厳冬期に入っておりました。

飼育中の虫の世話もギリギリ手が回るかどうか(イヤ、本当はもう・・・)と云う中で色々と作業に追われている状況でした。それにも関わらず、ちょっとした合間にネットオークションや昆虫通販サイトを眺めては、「こんな虫が今出回ってるんだ~」とか「あ~この虫欲しいなァ~!」などと目の保養だけは怠らずに続けていたのですが(ダメダメなヤツだな)
一際目を引くクワガタを見つけたのです。




「ペレン島産 ギラファノコギリ 1ペアのみ入荷」


ネットオークションにて、インドネシア便ワイルド生体の中にその名前がありました。この展開、少し前にもブログであったな・・・

よく知らない方であれば、
「ペレン産? なんか普通そうだけどそこまで反応するような虫なの?」
と訝しむ字面だと思います。

ペレン島と云うと、
インドネシアの数ある島々の中でも知名度ならかなり上位に挙がる島と思われます(個人脳内調べ)
有名な他の島と言えばスマトラ島やボルネオ島など、大きな島ばかりな中にあってこの小さなペレン島の存在感の異質さは独特なものがあります。
そのペレン島と云うワードを有名たらしめるのは、ほとんどメタリフェルホソアカクワガタによるものと言ってもいいのではないでしょうか。兎にも角にも、ペレン島=メタリフェルと云う方程式が外産クワガタ有識者の意識に焼き付いているハズです。
次いでこの島の虫で知られているクワガタと云えば、ファブリースノコギリとオオヒラタあたりでしょうか。

毎年毎年メタリフェルが大量に輸入されているイメージが定着しているからか、この島の名前に物珍しさを感じる事が無いと言われても否定しないのですが、ことギラファノコギリに関しては本当に滅多な事では目にしません。 すぐ隣にあるスラウェシ島からは、毎年多数の入荷がありよく目にするのですが、このペレン島のものは生体での流通は過去に指折り数える程度と目されていて、中には今回が生体国内初入荷ではないかと思っている人もいるとか。

ただし、それらを含めても過去入荷あったのはほとんどが♂のみかもしれません。
いくら調べても、ペレン産の画像や記述には生体♀に関するものが全くヒットしないんです。ネットに書いてある事が全てではないので単なるリサーチ不足なのかもしれませんが、ペレン産をブリードしたとするサイトは1つも無いので、今回入荷した♀はひょっとしたらとんでもない大珍品なんじゃないかと思えてきました。なんせ、あれだけメタリフェルの入荷しているペレン島からギラファを持ってきたのは初めてだと輸入業者が説明しているワケですからね。元々その島のギラファが珍しいのか、メインターゲットのメタリフェルの採り方ではギラファは採り辛いのか、そのあたりはよく分からないんですけども。

今唯一生存しているスラウェシのギラファでさえ投げやり飼育な自分も、これら↑↑の理由からちょっと興味が湧いてきました。
・・・否、湧いてきたと言うか、元々この辺りのギラファはずっと入手の機会を窺っていたんです。


しかし、この時はまさに苦しい財務状況。
年末年始にかけてまだ出費があるし、ゴホンヅノやオウゴンオニその他で飼育スペースにもあまり余裕が無い・・・

高値になる事も予想されるし、ひとまず様子を見るだけにしておこうと見送る方向で考えることにしました。





その2日後。

ついに青森市内にも雪が積もり始めてしまいました。
予報を見てもこの先融けて消えることも無さそう(根雪)で、いよいよ厳しい季節がやってきたなァ~と思いながらカレンダーの印刷作業をしていたところでスマホのアラートが鳴りました。
例のギラファのオークション終了時刻直前の知らせでした。

まァー俺にはそんな関係ないしー
新しく虫買う余裕なんてないしー
どうせバカ高くなってるだろしー


確認だけするつもりで商品ページを開いてみると、
終了時刻間近で9,000円ちょっと

意外・・・
ペレン産ともなれば国内のギラファマニアは放っとくハズはないのにそれでも4ケタ止まり。
世のギラファ好きからしても、実際のところペレン産への関心は薄いのか?
それとも、冬季だからと云う事で死着リスクが怖くて入札しないのか?
はたまた、♀がかなり小さい事でブリードしても幼虫の大型化ポテンシャルが低そうだと見積もったからか?(出品生体のサイズは♂85mm・♀31mm

当初はスルーして見送るつもりが、にわかに気持ちが揺らいできました。



まだ10,000円超えてないし、どうせまだこの入札者はやる気が残っているだろうと、
つい出来心で1回だけ入札をかけてしまったのが運命の分かれ道でした・・・



・・・・・・


・・・・・・


・・・・・・


・・・落札しました!


ええぇ~~~!!!!!??
ウソだろ!? 誰も高値更新しなかったの!?
いや~・・・困った・・・困ったなぁ・・・

落札できると思ってなかった(落札する気が無かった)ので俄然焦りました。雪積もってんだぞ青森は!

落札してしまったからには腹を括るしかありません。
(こういう言い方は炎上案件になりかねませんね)
安全面を考え、ゆうパックの利用&自宅配達ではなく局留めとし、さらに留め置いておく局も自宅近くの局ではなく貨物集配の市内拠点を指定。冬季はいつもクロネコヤマトを使っていたので、ゆうパックでの受け取りについてはちょっと探り探りでした。





それから、毎日毎日一向に晴れる兆しが無くずっと大雪。
天候を窺っている内にとうとう発送日の期限がやってきてしまいました。

「この日」・・・そう、
なんとあの衝撃的な大雪がニュースになったその当日に発送されたのです。
判る人には分かると思いますが、発送元はまさにその時大雪で交通インフラに影響が出ていた北陸地方。高速道路で立ち往生、自衛隊が出動しミヤネ屋の中山リポーターが関越道に閉じ込められていたその日です・・・!
KIMG1760.JPG
青森県内でさえこんなホワイトアウトしてるのに、北陸は一体どんな事になってるのだろう・・・

青森までの約750km、死のドライブが夕方にスタートしました。

もう気が気でなりません。数時間おきに追跡番号で輸送状況をチェックします。仕事にも身が入りませんよ。
向こうからこっちまで配達込みでの最短到着は【翌日14~16時】で、通常スムーズに運送されていけば翌日午前中には市内の集積センターに到着すると思われますが、この状況だとルート次第では翌々日まで青森に来ないのでは・・・などと最悪のケースを想像してしまいます。
カイロは間に合うのか!ギラファは生きて着くのか!






翌日。運命の日。

荷物の追跡情報が更新され、昼過ぎの13時半にセンターへ到着した事を確認。

18日の天気.png
この日は幸いにも昨日よりは空模様も穏やかで、日中はギリでプラス気温。局留め保管とは言え、暖かいに越したことはありません。

仕事終わりにそのまま郵便局へ直行。18時半頃に到着しました。

KIMG1768.JPG
この青森西郵便局が指定の場所。
青森市(旧)内には郵便物の集積センター(←呼び方が合ってるかは分かりません)が青森中央郵便局・青森西郵便局の2ヶ所在るのですが、ゆうパックについてはこの青森西の方を中継するようです。
(以前青森中央郵便局で局留めした時、一度青森西に到着してから青森中央へ運ばれる流れで記録が付いていました)




受け取り手続きを終え、ヒーターで暖まった車内へ戻るとすぐにテープを剥がし
開梱!

まずは大きい方のカップに目が行きます。
ヒョコヒョコと触角が動いている。

ヨッシャ・・・♂はちゃんと生きてる!!!



そして次は大事な♀の方。

小さい方のカップを開けてティッシュを取り除くと・・・・・・

・・・?・・・!!??



中に居る♀をパッと見た瞬間、
強烈な違和感を覚えました。












――違う、
ギラファじゃない!!!













ドルサリスだ!!!



・・・

・・・ギラファじゃない・・・えっ?・・・えっ??・・・

一度カップに戻して一呼吸つき、
もう一度確認してみます。

車内のルームランプの薄明かりに照らし、もう一度よく見てみます。
やはり、確実にこれはギラファではない・・・


虚脱感で頭の中が真っ白になった状態で撮った、車内の様子↓↓
KIMG1775.JPG
え~~っと・・・

生死の状態は問題ないので、ひとまず落ち着いて家へ帰る事に。


家に戻り、明るい照明の下で再度確認・撮影してみました。

ドルサリスノコギリクワガタ♀.jpg
♀の背面。やはりギラファとは別種のプロソポコイルス。


ペレン島に分布するノコギリクワガタは
ギラファノコギリP. g. nishiyamai
ファブリースノコギリP. f. fabricei
ブルイジンノコギリP. b. pelengensis
オキピタリスノコギリP. o. masakoae
ドルサリスノコギリP. d. hiromii
の5種、この中で♀が黒い(とされている)のはギラファとドルサリス、そして謎の多いオキピタリスの3種ですが

gr and do.jpg
頭部・前胸部を比較すると、
頭部の点刻や前胸縁の形状に明確な違いがあります。
特に、頭部表面の点刻はギラファとオキピでは派手にまぶされているので、この特徴だけでもドルサリスである事は確定しました。

KIMG1782.JPG
腹面は黒色。後胸腹板が僅かに褐色味がかっています。

KIMG1805.JPG
側面。光沢がきれいですが、クワガタそのものとしての個性は薄いですね。

今思えば、♀の31mmってギラファとしてはかなり小さいもんなぁ・・・
KIMG1779.JPG
参考までに、オークション出品当時の♀画像を再現した写真がこれ↑↑ですが、
このボヤケ具合は判断が難しいよな・・・
もっとしっかり♀画像注視してりゃぁ・・・

一応出品者に報告はしましたが、今回の出品物は一点物の為、代品は無し。
返金対応の提示がありましたが、返送するにもまたリスクがあるし、ギラファでなかったにしろこれはこれで損したワケでもないのでこのまま飼育する事にしました(理由は後述)



・・・では、
気持ちを切り替えてドルサリスノコギリについて書いていきます。

ドルサリスノコギリクワガタは、
フィリピン及びインドネシアの一部の島嶼に分布し
Prosopocoilus dorsalis dorsalis (Erichson, 1834)
Prosopocoilus dorsalis hiromii Mizunuma, 1994
の2亜種が記載されています。
(ただし、どの図鑑でもこの情報が当たり前のように紹介されてはいるのですが、実はこのドルサリスdorsalisと云う名前は無効名かもしれないと云う話があります。もしそうなれば、フィリピンの原名亜種は無効となり、後から記載したヒロミ亜種がそのまま種に昇格しフィリピン産が別亜種扱いに・・・と云う事になります)

このドルサリス、分布が奇怪で、
ドルサリスノコギリ 分布.png
google mapから編集

フィリピンに原名亜種、インドネシアにヒロミ亜種がそれぞれ分かれているのですが、地図の通り飛び飛びに生息していて、ルソン島あたりを除けばほとんどが小さな島ばかりで、不思議な事にこれらの分布域を繋ぐ位置に在るミンダナオ島・スラウェシ島・ハルマヘラ島などの大きな島で見つかっていません。

これには、個人的な見解ですが野外での採集数が関係しているのかなと思うんですよ。

採集数って言ったって結局市場の流通量で判断するしかありませんが、フィリピンの原名亜種はルソン島やボアク(マリンドッケ)島あたりからたま~~~にワイルドが入荷しているのを見ます。
また、入荷量が少なく安定していない事で、流通する個体の産地ラベルが毎回のようにばらけている印象です。飼育個体をSNSやオークションで見ると、同じ産地でインラインが進みがちになる傾向が見えてきます(この手の種類って、他の人が飼ってる同産地個体が「実は同血統だった」のを知らずに交配して幼虫をCB表記にしてしまうパターンが多いんですよね)

さらにヒロミ亜種については、原名亜種よりもはるかにワイルド個体を目にする機会が少ないです。あまり注目されない地味目の中型ノコギリなので話題性も無いんですが実は非常にレアな亜種なんですね。
この分布する島々を見てみると、この亜種が出回りにくい事が読み取れるでしょう。一般にインドネシア産クワガタで入荷する産地としてはペレン島以外ほぼ見込みが無い(=そもそも普段それらの島から生体が入ってこない)からです。
さらに、ワイルド入荷が唯一期待できるペレン島に関しても、「年間1頭見るかどうか」「入荷ゼロの年も普通にある」と云う印象。
もしペレン産ギラファではなくペレン産ドルサリスとして売られていたらもっと高値になっていたかもしれないほどです(ペレン産ギラファも全く流通ないんですがねぇ)。意外にも、このドルサリス・ヒロミを一度飼ってみたいと云うマニアな方もSNSではチラチラ散見されるんですよ(少なくともペレンギラファよりは確実に多いです)
なかなか採れない種類である上、クワガタの採り子が居ない島々がほとんどな事から、生息しているのにまだ記録が出ていない可能性もあるんじゃないかと思わされます。

フィリピンにしろインドネシアにしろ、現地の採集法にあまり合ってないから採れないんじゃないかなど、色々考えてしまうんですが
こんなにドルサリスの話ずっとしてる自分がだんだん恐ろしくなってきたのでここで一旦終わります。



さて、
今回の主役の座からすっかり降ろされてしまった感があるギラファの♂はこちら。
giraffa peleng.JPG
ギラファノコギリ(ニシヤマ亜種) ペレン島・ラボタン山

いやぁ~・・・もうどうしようか。
初めて見たペレン島産ギラファの感動が全部ドルサリスに持ってかれたこの複雑な心境。


KIMG1800.JPG
今回届いたペアを撮ってみました。
このツーショット、ここまでの経緯を一切省いてこれだけポッと見せたら何の違和感も感じないだけに、この写真の仮面夫婦っぷりにガックリきます・・・全然関係ないペア(苦笑)

しかも♂が非常にもったいない事に、

KIMG1794.JPG
めちゃめちゃ元気。
〆てすぐに標本にするか、近い内に♀が入荷することを期待して飼い続けるか、
・・・・・・あぁ・・・迷うな・・・




KIMG1813.JPG
前日に仕込んで温室内でマットの温度も安定させていたギラファ用の産卵ケース。
そのままドルサリスのセットになりました。
コバシャ中ケースが31mmの♀にはトゥーマッチ(笑)


予期せぬ展開となりましたが、
また来年この続きを書けることを期待したいところです・・・
・・・2つの意味で。



新しく入荷した在庫 1種類(?)
ブログに載せた在庫 91種類
すべての在庫 12種類




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デススト

お久しぶりです
これ買われてたの会長だったんですね
飼育屋の知り合いの方でも「ペレンのギラファ入ってる」と話題に上がっていたのでこの入荷は俺も記憶に新しかったのでコメントさせて頂きました。

また、少し話変わりまして
今年はお会い出来ませんでしたが
来年は青森に永住できると思いますのでまたよろしくお願いしますm(*_ _)m
by デススト (2020-12-25 20:31) 

会長

デスストさん、ご無沙汰しています。

ペレンギラファ、水面下では意識している人もいたんですねぇ・・・
入札がイマイチ上がらなかったのは色々要因があるかもしれませんが、まぁ輸入元が・・・ってトコも大いにあったでしょうね(笑)
結果ドルサリスだったのでペレンはまたいつかの機会にと思っています。

それと、来年の話だけども、
もしかしたらタイミングが合えば、デススト君にもある事にちょっと協力してもらうかもしれないからその時はよろしくね♪♪
by 会長 (2020-12-26 12:24) 

デススト

知り合いの飼育屋のグループでは入荷当時に
画像で「これは本当にギラファ♀なのか」論争が巻き起こってまして会長と同じく「ドルサリスの♀」と落ち着いてたので
その時にお伝えしておけばよかったぁと(まぁ、知らなかったし後の祭りなのですが←)

青森の件、了解しました!
タイミング合えば是非参加します!
楽しみにしております!
by デススト (2020-12-26 14:02)