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Tanaosri? Tanintharyi? Tenasserium? [ゴホンヅノ (キミオイ亜種)]

一昨日、昨日と続いた駆け込み増種記事も今夜が最後です。ギリギリです。
第3回の今回は、今年最も衝撃を受けた種類であり、初飼育でもある種類となります。


遥か以前、当ブログではこんな記事を書いた事がありました。

 【こんな記事】
   ⇒ 2010-3-12  ゴホンヅノカブト 『キミオイ問題』

ゴホンヅノカブトの一亜種=キミオイkimioiの誤同定に素人ながら物申した記事でした。
――って言うか この時まだ俺高校生だったのか。なんか泣けてくる・・・!


キミオイゴホンヅノについて

増種した虫の正体を軽々とバラしましたね。


さてこの当時の記事↑↑は、その前年9月にターク産ゴホンヅノカブトがキミオイとして販売された事に端を発していて、当時はブログ全盛期だった事もあって様々なブロガーがこの “偽キミオイ” の飼育記を書いていました(今検索すると全然ヒットしません、ブログが消滅した・・・!?)
そうしたブログをいくつも読んで、「なんだかよく分からないけど珍しいんだ~凄ぉ~い♪」と判りもしない虫を有り難がる矛盾に一石を投じたい一心で書いたのがあの記事でした。

それから、毎年のようにゴホンヅノカブトはタイから入荷してくるのですが、どれもチェンマイ周辺の原名亜種ばかりで、タイ中西部やミャンマー南部からの入荷は皆無(標本を除いて)。さらには一時期、ゴホンヅノ自体入荷が激減した時期もありました(これを覚えている人どのくらいいるでしょうか)。その上、新型コロナウィルス流行で一旦タイ便が来なくなった反動か、それまで4,000~5,000円で買えていたゴホンヅノが20,000円クラスに急騰してしまい、ブリーダーによる投機対象の虫に変わってしまいました。

――話をキミオイに戻して、
キミオイの存在についてはしばらくの間カブト好きの記憶から消滅しかかっていたと思われますが、10年以上の年を置いてまた入荷の報せが入ったのです。
2021年の事なので現在も飼育中の人がいると思いますが、とあるショップにのみ入荷した中国の雲南省・盈江県ラベルのものがそうです。

これには最初、自分もこの入荷情報に胸が高鳴りましたが、産地ラベルの位置を確認しようと地図を開いたところ愕然としました。
これ、キミオイじゃなくない???
この頃には月刊むし等のゴホンヅノ記載文やBE-KUWAのゴホンツノ特集なんかも手元にあって、参考文献も十分な状態にありました。
この地域から得られたゴホンヅノがキミオイであると云う根拠として中国のサイトがスクショされていたのですが、それにしては根拠と出来るような説明は不足していて、図示された個体もミャンマー南部産(地名では地点を特定できず)
後年、これを買った人らが羽化したWF1♂個体の画像をSNSやヤフオク出されていましたが、キミオイに見える個体はいませんでした。


タイ・カンチャナブリ産の入荷

まず入荷するなんて事無いんだろうな~と既に高を括っていた今年の10月中旬の事、「埼玉県の専門店でタイ産のキミオイ亜種が入荷した」と云う情報をキャッチしました。

見てみると、載せられている画像はまさしくあの「キミオイ」そのもの!
本当に入荷するもんなのか~~!!! 諦めて標本買っちゃったのに~~!!!

しばらくその写真(と入荷情報)に目が釘付けになりました。・・・あのキミオイが、本物が、国内に入ってきた・・・!!!
正直言って原名亜種より好みなので、生きているのを生で見てみたいもの。

しかし、この時はちょっと心にブレーキが掛かっていました。

まず第一に、今の温室内には去年から飼育し始めたヘラクレス・リッキーが犇めいている事。抱えている飼育数も少なくないし、これから本格的に飼育容器を大きくしていかなければならない手前、さらにカブトムシなんて増やしたら現状の飼育スペースが限界を突破してしまう危険があります。

そして、それ以前に飼育していたプランディ亜種の苦しい記憶がまだ鮮明に残っています。当時は60頭超産まれた幼虫を全て抱えて飼育した事もあり、ズボラブリーダーの自分としては非常に大変な思いをしました。エサ代も体力も馬鹿みたいに使ったので、レコードに出せるレベルの個体は羽化させられましたがもうヘロヘロでした。それを思い出して、もうしばらくはゴホンヅノに近付くのは止めとこうかな・・・と考えていたのです。

おまけに、キミオイの入荷はほぼ【初入荷】と同義(以前も書きましたが、かなり昔に個人のホームページでミャンマー産キミオイ生体を所持している人を見かけているので、個人的には初入荷ではないと解釈しています)。昨今のゴホンヅノ価格を想像すると決して気軽に買える金額ではなさそうで、お店に価格を聞くのも躊躇われました。


こうした理由でしばらく固まっていたのですが、
長年憧れ続けてきた虫が国内に今入荷していると思うと、本当に悩ましくなってきました。遂にはいよいよ仕事も手に付かなくなってくるほど頭の中がキミオイで一杯になってきました。
(ちなみに虫の事で仕事が手に付かなくなる事はしょっちゅうあります)

散々悩んだ挙句、意を決してお店へ問い合わせる事にしました。
つまり、増種する覚悟を決めたわけです。
この時点で最初の入荷情報公開から、3~4日が経っていました。

電話を掛け、キミオイの在庫を訊いてみます。


ところが残念な事に、時すでに遅し。
入荷分はもう全部売り切れていました。
念の為に詳しく聞いてみると、入荷は9ペアのみと少なく、今回現地から1便だけ入ったとの事。もっと数を押さえておきたかったが現地キャッチャーの採集日程中に悪天候日と被ってしまい、ほとんどまともに採集できる日が無かったとの事でした。
ついでに、「産地はもしかしてカンチャナブリですか?」と訊くとその通りだとの事で、第2便の予定を訊くと「要望してはいるがおそらく叶わない」との事。

こうなっては、もうほとんど諦めるしかありません。
「あぁ~なんか夢見ちゃったなー でもまぁこれも運命だろなぁ」


ミャンマー・タニンダーリ産の入荷

それから約半月後、キミオイの存在が頭の隅で小さく小さくなっていた矢先、
今度は神奈川県の専門店から入荷情報が飛び込んできました。
前回見たタイ中西部産と違い、今回はミャンマー南部産です。

前回の時はあまりに予想外で衝撃的だったので、見た瞬間ポカンとしていた感じでした。今回は前回の事を忘れて気にすまいとしている中での報せだったので、あたかも後ろから髪を掴まれて引き倒されるような感覚。
今度は店頭販売以外にもネットオークションへの出品があるとの事で、この時にはもう心のブレーキは壊れていましたね。

出品は全部で5件。
10月30日から始まり、翌31日には3件が終了、11月1日に2件が終了しました。
自分の見立てとして、このごく短い出品期間の中でじっくり動静を見極めていると注目が集まってしまい、遅くなるほど入札額が上がってしまうだろうと判断。結果、31日の終了分に勝負をかけて落札を決めました。
終了日2日目は予感が的中、入荷最大個体が含まれていたのも要因ですが、落札価格は初日と比べて倍以上に膨らんでいました。落札していたのは、初日は未参加だったショップのブリーダーでした。こんなのと入札被ったら、自分のような個人では太刀打ちできなかったでしょうね。

その後、追加出品もありミャンマー産は総数20件弱が出品されました。
(この時の出品ページは、今後の詐欺出品対策時の資料として全てスクショして保存しました)
ちなみに落札者を確認してみると前出のショップ含めた僅か2名が集中的に落札していて、資本力をまざまざと見せつけられたようで寒気がしました。



さて、何はともあれ自分のブリード分は確保できたので、手元に生体が到着する前に産卵セットを準備しておきます。なにせ寿命が短いカブトですからモタモタしてられません。

手元には産卵に使えそうなマットがありませんが、通販だと生体の到着に間に合いそうもありません。・・・と云う事で、昔ゴホンヅノの産卵で実績のある腐葉土をホームセンターから調達する事にしました。
KIMG7016.JPG
夜を徹して腐葉土のダマを潰しては篩がけを繰り返し、産卵ケースのセットも完了。


到着、そしてブリード開始

11月2日、仮死状態になる事も無く、生着しました。

PB020167.JPG
ゴホンヅノ(キミオイ亜種) ミャンマー タニンダーリ管区 ダウェイ県


美しい・・・これが本物のキミオイ・・・!
標本では既に持っているのですが、やはり生きているのを見るのは全くの別感覚です。遥か彼方のミャンマーの山奥から、この島国の田舎に連れ出されてやってきたと思うと感慨深いです。そして、あの記事(アレね↑↑)を書いて以来、このブログがまだ生きている内に入手できた事への奇跡的な展開にも感動しきりです。

PB080177.JPG
存在感凄まじい中央胸角。迫力十分です。


ところで、今回入荷したこのミャンマー産ですが、
産地名を確認するにあたって気になる点があったので書いておきます。

【ミャンマー,タニンダーリ管区,ダウェイ県,タナオスリ(市)】
と云うのが採集地なのですが、
グーグルマップやウィキペディア(英語版)、ミャンマー関連のウェブサイトを見てもダウェイ県内にタナオスリと云う地名は見られません。
また、【市】との事ですが、地図で確認しても最大都市ダウェイ以外にそれらしい名前の大きな町はありません(勿論、そこがただの集積地だったと云うパターンも考えて海岸沿いや低地まで虱潰しに探しました)
採集をオーダーした=出品元のお店にも話を伺いましたが、そちらの方でもタナオスリ市は見つけられないとの事でした。私見として、ダウェイ県東部・タイとの国境近い地域で採られたのではないかと仰っていました。

そこで、地域内を探すやり方から発想を変え、
予測できる範疇で地名をアルファベット変換して検索を掛けてみる事に。

するとその結果、核心に迫るような内容がヒットしました。
綴りではTanaosriまたはTanao Sriと表記され、主にタイ国内からの情報。意味は、我々生き虫屋界隈ではお馴染みのテナセリム山脈またはタニンダーリ山脈の事。
ここの山脈はミャンマーとタイの国境にもなっている地形で、かつミャンマーはその昔イギリス領だった事から、当地の呼称が3つほど存在します。

ミャンマー語 Tanintharyi(タニンダーリ)
英語 Tenasserium(テナセリム)
タイ語 Tanaosri(タナオスリ)

ここから推測するに、このミャンマー産キミオイのキャッチャーはタイ語圏の人(と言うかタイ人)で、ラベルを教える際に
「ダウェイ県のタニンダーリ山脈内で採った」
と云う意味で伝えたけども、タイ語だったからミャンマーの地名と一致しなかったのが経緯だと思うんです。
(考えてみれば、今現在ミャンマー南部から生き虫なんて入ってきてないわけですから、現地に採り子がいるとは考えにくく、タイ側から越境して採りに行ってるのではないでしょうか)
まぁあくまで自分の予想ですし、お店の方にあんまりしつこく質問するのも迷惑でしょうからそこまで色々訊いたりはできませんでした。



さて、話を虫に戻します。

PB020159.JPG
実は今回、ちょっと不安だったので2ペア落札しました。
♀が2頭いると安心感が違います。

PB020163.JPG
PB020161.JPG
特に、ブリードの主役である♀の健康状態は良好です。
体重は9.1gと8.6g、脚の力も強くよく動き回るので落ち着いて写真が撮れません。

片や♂の方ですが、思ったよりも大人しいです。
いや、大人しいというよりはちょっとヘタってきていると云う様子です。

2頭いる内、片方は特に大人しく自分からは全く動こうとしません。

PB020162.JPG一応、元気な方の♂は飛んでくれたりはするのですが・・・
これまでの購入経験から見ても虫としての力強さは感じられません。

日本まで状態良く輸入する事もなかなか難しいので仕方ない事ですが、♂個体を見ているとなんとなくその背景が透けて見えます。
PB020170.JPG
上翅を見ると痛々しい傷や穴がたくさん付いています。
もしかして・・・と思って今回ヤフオクに出品されていた出品写真を全て見直してみると、全てではありませんが結構な数の♂個体に同様のシミが出来ていました。

他の産地で出回っている個体の販売写真をみてもこれほど派手に上翅が傷ついているのは見られません。

また、♀個体ではどの個体にも上翅傷は見られなかったですが、
PB020171.JPG
脚の先を見ると、パキッと爪が途中で折れている(摩耗ではない)のが何本か見られました。

これらの事から考えるに、
おそらく現地での採集直後から長時間のあいだ、♂と♀の2つに大別してバケツか何かの大きな容器にそれぞれまとめておいたのではないでしょうかね。
♂は容器の中でもみくちゃになりながら角で挟み合ってしまい、体力を著しく消耗したり身体に傷や穴が開いてしまったと。♀の方も、♂ほど危険ではないにせよ、上翅と前胸に爪を掛けた拍子に爪を折られてしまう状態が続いたものと思っています。
勿論、純粋に野外活動中に損傷した個体だった可能性もありますが、これまで知られている生態からするとシーズン終盤と云うわけでもないようですから(むしろタイより遅い今頃がシーズン初期)、個人的には採集後の現地での管理が原因の線が一番しっくりきます。



さて撮影や鑑賞もそこそこにして、♀はそのままケースへ直行してもらいます。
KIMG7024.JPG
入れた途端に潜っていきました。
・・・が、これが最初で最後の記事にならないか内心ヒヤヒヤします。



新しく入荷した在庫 1種類
ブログに載せた在庫 95種類
全ての在庫 12種類


これにて2023年分の増種紹介、完了!


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